少し時間が開いてしまいましたが、9月27日、学習院高等科の修学旅行の「リーフトレイルコース」のガイドを担当させていただきましたので、そのお話を。
当日は9/27は、台風(のちに沖縄に大停電をもたらす台風24号、アジア名❝チャーミーTrami❞)が沖縄本島のすぐ南まで接近。開催も危ぶまれる中、奇跡的にまったく雨も降らず、雷も鳴らず、風もたいして強くはならず、無事に1日のプログラムを完結できました。
コースは恩納村内を回るもので、
9:00集合
万座毛でサンゴ礁地形の見学
グラスボート乗船、サンゴ礁の観察
恩納村博物館見学
昼食
干潟の生き物観察
サンゴの種苗を見学
16:00解散
というものだったのですが、台風の高波の影響により前日の時点でグラスボートの欠航が決定。
平底船であるグラスボートはサンゴ礁を俯瞰(ふかん)して観察できる&さらにその状態でしゃべることができる(シュノーケリングはしゃべれない)という素晴らしい自然観察ツールなのですが、少し波が高いと出船できないのがネック。まぁ当日の高波なら、グラスボートではなくどんな船でも無理でしょう。
万座毛へ
当日の朝、天候に関する不安を抱えつつ、生徒さん方が宿泊されているホテルで合流。
前日夜に打ち合わせをしたのですが、皆さん本当に好奇心旺盛で、沖縄の海の生き物や自然に興味があってこのコースを選択したとのことで、こんな天気ではありますが、これは何とかして面白いものを見て帰ってほしいところです。
まず向かったのが万座毛。ここはとても有名な景勝地・観光地ですが、ダイナミックな海蝕洞などの地形が見られます。
ここでは、このような琉球石灰岩の段丘がどうやってできた、みたいな話からスタート。サンゴの造礁作用のスケール感などを感じてもらいました。
話をしていて驚いたのは、なんとこの高校に「地学部」という部活があるということ。
「あるのが普通という感覚だった」と先生はおっしゃってましたが、「科学部」として1つにまとまっている学校や、あっても「生物部」「化学部」「物理部」という学校が多い中、「地学部」は相当珍しいのではないでしょうか。鉱物や地形をはじめとして、天文や気象まで扱う部活、とのこと。
そしてなんと、参加した生徒さんの中にこの地学部所属の生徒さんがいて、以後随所で地形の写真を撮りまくったり、「ツルハシもってきて叩きたい…」と、持病を発症して楽しんでいました。
ちなみに生物部は部長さんが来てました。
ビーチコーミングへ
この後グラスボートに乗る予定だったのですが、船が出ないとあっては仕方ないのでビーチコーミングに変更。
ちなみに「ビーチコーミング」は、海岸の漂着物や貝殻やサンゴのかけらを集めて楽しんだり、観察したりする活動を指します。
見たことのない面白い花がある!と食いついてくれたのは、おもに海岸に生える低木クサトベラの花。
奇妙な形に見えますが、花を訪れるハチなどの背中に確実に花粉をつけ、それを別の花の雌しべで確実に回収する形になっています。
ここで、ビーチコーミングのコンセプトを説明した後、目の届く範囲で散ってもらって捜索開始。
こんな具合に岩のくぼみにたまった砂をすくって探すと…
ありました、ホシズナです。
ホシズナは有孔虫というアメーバ状の生物が持っている殻で、比重が軽いので波にのってこうした岩場のくぼみに打ち上げられます。
ホシズナやタイヨウノスナといった、炭酸カルシウムでできた有孔虫の殻は、サンゴの骨格とともに、サンゴ礁の砂や地形ができる材料となっています。
くぼみにたまった砂はこんな感じ。肌色のつぶつぶは、全てホシズナやタイヨウノスナなどの有孔虫の殻。このうち、トゲが削られずちゃんと残っているものを「ホシズナ」と呼んでいるだけなのです。
この他にも高波でかめ穴に取り残されてしまったルリスズメダイを発見したり…
何かの頭骨を発見したり。マングースでは!?と騒いでいましたが、ネコでしょうね。マングースの頭骨ならもっと細長くて小さいはずです。
みんなで拾ったものを持ち寄って、サンゴの骨格などをネタにサンゴの形態・生態、生活史などのお話。
一見なんてことのない砂浜にも、目の前の海の生物や環境に関する情報の切れっ端がたくさん落ちているのです。
恩納村博物館へ
昼前に恩納村博物館に移動。今回、同博物館学芸員の方に展示の解説をお願いしました。
ここでは、サンゴ礁の自然がかつて人々の暮らしとどのように関わってきたか、というお話を中心に解説していただきました。サンゴ礁や山の自然を利用する際の道具やそのレプリカが多く展示されています。
個人的には、単発で見学に行ってすごく楽しめるか?というと、よほど史跡が好きな人でないと難しいかな、と思いますが、他のアクティビティ(たとえば釣りとか)の行きや帰りに訪れて見学していくと、いろんなものがリアルに繋がって見えるのではないでしょうか。家族でのお出かけがてら、にもオススメです。
「隣のコミュニティーセンターの最上階で海を見ながらご飯を食べれる」という前情報だったので行ってみたら、何ていうか、オシャレなぼっち飯空間でした。飯食いながらコミュニケーションは難しい感じ。
いろいろ雑談をしましたが、「家族でレンタカーを借りて沖縄旅行に来たら、川か海で放置してもらい、1日遊んで夕方回収してもらう」という猛者もいました。
サンゴ礁・干潟へ
心配していた天候もなんとか持ったので、午後からはサンゴ礁と干潟の自然観察に。
シオマネキの仲間を見たり、
ソデカラッパの独特すぎる形態に興奮したり。
「右のハサミを缶切りのように使って巻き貝を割る」なんてネタは知っている生徒もいましたが、砂に潜る様子を観察してもらうと大喜びしてくれました。
もう何も言わんでも、こんな感じで生き物を見つけては観察、という光景があちこちで繰り広げられていました。
転石下の生き物探し。
転石を裏返したときは、かならずもとの位置・もとの面が下になるように置き直します。その際、転石で潰してしまわないように、目立つ生き物はなるべくすぐ側に避けておきましょう。
こちらは卵を産んでいたハナビラダカラ。
たくさんいたナガウニ。サンゴ礁でもっとも普通に見られるウニです。
目立つツートンカラーのノシガイ。
そして毛の色がやたら明るいケブカガニ。
スーパーサイヤ人だ!と喜んでいただけました。その発想は無かった。眼赤いし。
テンジクダイの仲間(テンジクダイ亜科)の幼魚。
ヤワラガニの仲間?非常に小さいカニ
サメハダヤドカリ?が殻の上で大事に育てていたイソギンチャク。この仲間は自分の貝殻にイソギンチャクをつけて、その刺胞の毒で実を守ろうとする習性があります。
転石下で見つけたイレズミハゼの仲間。かわいらしいですね。
誰かが面白いものを見つけるたびに、散ったメンバーを呼び集めて解説したり、問いかけをしたり。
シャコガイ。この色模様は…シラナミでしょうか。
そしてオオイカリナマコ。ナマコはこうしたバットに水を張って入れると、水中にいるときの「本来の姿」を観察しやすいのですが…1匹のナマコでバットがいっぱいですね。
こちらはジャノメナマコ。
ふだんは小石や枯れ葉をまとって偽装しています。
「ベタベタしているわけでもないのに、どうやってくっついているんですか?」―こんな良い質問も。正直、正確なところはよく分かりません。粘液でくっつけていると言われていますが、はがした後触ってみてもネバネバ、ベタベタなどしていません。
ミノガイの仲間。触手のような突起をすべて貝殻に収めることはできず、このまま貝殻を開閉させてパクパクと泳ぎ回ります。「いっそ貝になりたい」みたいな貝観とは真逆な貝です。
ミナミイワガニ。テトラポッドなどにもついていますが、人影を見るとすばやく隠れてしまいます。運良く捕まりました。
ハサミや眼の下など、よくみるととても美しい色彩をしていますね。
フトユビシャコの仲間。
シャコの仲間は前あし(捕脚)の先がふくらんでいて非常に硬く、その部分を高速で振り上げることで「パンチ」を繰り出します。
この攻撃で貝を割ったり、魚を気絶させて(というか殺して)食べるといわれています。威力はかなりのもので、水槽のガラスが割られた、みたいな話もけっこうよく聞きます。
目の前の生きたサンゴを題材に、サンゴの生態や、サンゴという生き物がサンゴ礁という環境をいかに支えているか、といったお話もしました。
こちらはクロユリハゼの仲間の幼魚。潮溜まりにいっぱいいました。
まんまるなヒトデ、マンジュウヒトデ。
*【観察する際の注意】マンジュウヒトデ、コブヒトデを観察される方にお願いです。これらのヒトデには、わりと高確率でヒトデヤドリエビの仲間がついています。
こんなやつです。
マンジュウヒトデやコブヒトデを無造作に持ち上げてしまうと、これらのエビが取り残され、周りの魚に捕食されてしまうこともあります。特定の種類のヒトデにしか共生せず、個体数の多いエビではないので、大事にしたいものです。
なるべくヒトデを水ごとバットなどに入れて観察しましょう。エビも観察できて一石二鳥です。
こちらは、かなり陸よりの潮溜まりにいたカエルウオの仲間(タマカエルウオ?)。
敵に襲われたり、潮溜まりの水温が熱くなったりすぎると、しっぽ全体を使ってピョンピョンと水のない場所を跳ねて逃げることができます。プラケースなんて、入れたそばから飛び出していきます。
散々楽しんで、そろそろ撤収という時間なのに、生き物を見つけては盛り上がる生徒さんたち。良い眺めだ…と思いつつも、スケジュールもあるのでそうも言ってられません。
これまでの写真の絵面があまりに修学旅行らしくないので撮らせてもらった1枚。
このあと最後に、バタバタしていて写真はないのですが、サンゴ種苗を生産している漁港に行き、種苗を観察。
種苗の生産方法や移植方法などとともに、「移植だけでは絶対に沖縄のサンゴ礁は回復しない」というお話もさせていただきました。何らかの原因があって減ったものは、原因を取り除かなければ長期的に回復しませんし、サンゴ礁の生態系を回復させるなら数種類のサンゴだけでなく、そこに生きる様々な生物が暮らせる環境を取り戻さなければなりません。比較的手頃にできる移植ばかりが先行している現状は、問題が多いです。
と、ここで時間がきたので漁港を後にし、ホテルに帰着。
締めはどんな話にしようか迷いましたが、皆さん既にめちゃくちゃ自然や生き物が好きなので、「今楽しむばかりでなく、自分や子供・孫の世代までが、今後もこういう楽しみ方をできる場所を残していくためにどうすればいいか考えよう」というようなお話をしておしまいにしました。
最後に、コースに参加してくださった生徒の皆さん、引率の先生、1日ありがとうございました!!