沖縄産カメムシ2種がそれぞれ「英国風」「和風」すぎると話題に!

カメムシと言えば、悪臭を出すことで嫌われ者というイメージがありますね。

でも、沖縄にはこんなカメムシもいます。

@curious_okinawaが投稿した写真

今回紹介するカメムシも、なかなかのお洒落さん達です。

(試しにInstagramの昆虫写真の投稿をファッション系のタグまみれにしてみたところ、Instagramをファッションやメイク関係の情報収集に使っているであろうお姉さま方からもリアクションがありました。いろいろな方に興味を持ってもらうのはとても重要なことです)。

英国風ロイヤルカメムシ

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シロジュウジホシカメムシ Dysdercus philippinus

どうです英国風!

…え、どこが英国風か分からないって?

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ほら、集まってると近衛兵っぽくないですか?

こんな 英国風な出で立ちですが、もちろんれっきとした沖縄在来の昆虫です。この模様を「インディアンの盾」と表現している方もいました。言われてみれば。。

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那覇市内にて、2月

冬場、オオハマボウという樹の葉の裏にこんな風に集まって冬越しします。特にぽかぽかと日の当たる地面に近すぎない場所の葉の裏をのぞいてみると高確率で出会えます。

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さらに、こいつの幼虫の頃の姿がこんななので笑ってしまいます。チョッキか!っての(若い世代の人よ、チョッキとはベスト、ジレーのことです。)

こってり和風カメムシ

それと対をなすように和風な出で立ちをしているのがこちら。

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アカホシカメムシ Dysdercus cingulatus

はい、こちらは文句無しに、誰が見ても和風だと思います。

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黒いスポットが目玉で、人の顔にもちょっと見えますね。

幼虫の写真…はちょっと手持ちが見当たらないのですが、シロジュウジホシカメムシとよく似ています。

カメムシは植物食のものが多く、今回紹介したカメムシ2種もアオイ科の植物(オオハマボウやハイビスカス、フヨウなど)に口吻を突き刺して汁を吸います。ただしカメムシの中には肉食のものもいて、ベニホシカメムシ Antilochus coqueberti なんぞは、(今回紹介した)近縁種のアカホシカメムシを専食するというから驚きです(ひっくり返して口吻を突き刺し体液を吸うようです)。いつか絶対写真撮って記事にしよう。

今回の記事を書くにあたって、あまにりヘタな事を書いてないか一通りweb検索したのですが、wikipediaの情報が安定しているのがいいとして、ニコニコ大百科のカメムシのトピックが素晴らしい。

(by 宮崎)

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【番外編】愛媛県に行ってきました、ので愛媛の身近な生物紀行。

こんにちは、キュリオス沖縄の宮崎です。

愛媛県にいる祖母のもとに親戚が集まるというイベントがあって、愛媛県に行ってまいりました。いや〜、普段からカメラのメモリーの中は生物とか景色ばっかりなのですが、久々にこんなに「人」の写真撮りました。そんな中で少しですが、沖縄にいると出会えない(出会いにくい)生物の写真も撮ってきたのでご紹介します。

まずは祖母の家の近所から。

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アジサイが花盛りでした

愛媛は梅雨真っ盛り…だったのですが、そこは流石に瀬戸内。沖縄よりよっぽど空気が乾いています。久々に体温調節がうまく機能している感じを堪能しました。

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ツチガエル Glandirana rugosa→ヌマガエル Fejervarya kawamurai 

ツチガエルと思っていたのですが、ヌマガエルとのことです(富永先生、ありがとうございます)。

沖縄には近縁種のサキシマヌマガエル Fejervarya sakishimensisが分布します(僕は間違えたツチガエルとは、腹が白いこと、背面のいぼ状突起が小さく滑らかなことなどで区別できます)。

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ドクダミ Houttuynia cordata

いくつかの図鑑では沖縄に分布することになっているのですが、滅多に見ないドクダミ。花は可憐ですが香りは強烈です。葉をもんで鼻につめたら、強烈な臭気とともに少年時代のことをいろいろと思い出しました(葉っぱを顔の前でちぎる、くらいで十分強烈な香りがします)。

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ウメエダシャク Cystidia couaggaria couaggaria

日中からパタパタと飛び回る蛾。羽ばたきは速いのに飛ぶ速度はゆっくりで、これが大量に飛び回っていると何か不吉・不気味な感じがします。ウメやサクラを食草とします。

瀬戸内の海の景色を見るため、しまなみ海道を通って島にも渡ってみました。

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最近、しまなみ海道はサイクリストを呼ぼうと頑張っているみたいですね。あちこちで自転車に乗った集団とすれ違いました。確かに道中の景色は最高だろうなぁ。

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ヤブキリ Tettigonia orientalis

サクラの樹上にいたヤブキリ。キリギリスの仲間の中でも肉食性が強く、アゴや脚に生えた棘がよく発達しています。こちらも沖縄を除く全国に分布。

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アオダイショウ Elaphe climacophora

そしてアオダイショウに遭遇!!これも沖縄では出会えない生き物です。本州・四国・九州では普通ですが、実は日本固有種なんですね〜。

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いつ見ても可愛くていいヘビです。無毒ですが、ヘビの種類を見分ける自信のない人、扱い慣れていない人は捕まえようとしないこと。ヘビの方にに怪我をさせてしまう可能性もあります。

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美しい鱗。よく見るとダニがついてますね。

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アオダイショウのお腹。幅の広い鱗(腹板)に覆われています。多くのヘビは、この腹板を立てたり寝かせたりする運動により前進します。

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横顔がカワイイですね!

という訳で、楽しい四国行でした。

まるで和菓子のような可愛さ。やんばるの固有種「ナミエガエル」

沖縄本島の北部の山林「やんばる」には、数多くの固有種(そこにしかいない生き物)の生物が生息しています。その一つがこのナミエガエル。

一見ヒキガエルにも似ていますが、分類学的には全然違う仲間のカエル。クールガエル属という台湾〜東南アジアにかけて生息・繁栄しているカエルのグループに含まれるそうです。

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ナミエガエル Limnonectes namiyei

低地にはおらず、夜間、山の渓流の周辺、それも流れが急ではなく緩やかに広がるような所に好んで集まるそうです。雨の日は活発に活動し、沢の周辺の登山道にまで出てきます。

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森の中で鳴いたり移動したりしている時は、こんな風に前脚を伸ばして堂々と佇んでいます。サイズも♂で10cm超と結構大型になるのでなかなか立派な感じです。

おいおい、こんなカエルのどこがカワイイんだよ…と思った方。

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雨の日のやんばるにて。雨滴が写り込んでいます

ナミエガエルは外敵に気づくと、こんな風に「ぺたん」と座り込んでしまうのです。この姿が最高にキュート!!

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虹彩に十字の模様が入ります

背筋を伸ばして(?)いると結構よく目立ちますが、いったん「伏せ」の体勢をとると、沢沿いの石に紛れて非常に目立ちにくくなります。

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産卵場所の、沢が広がった沼地で鳴いていた♂

繁殖期は4-6月、沖縄でいわゆる「うりずん」と呼ばれる初夏の季節で、この時期に♂は「クォックォックォッ…」と鳴きます。

この仲間のクールガエル属のカエルには、何と♂が下顎に牙(のような突起)を持つものが多く、ナミエガエルもこの牙を持つ…そうなのですが確認したことがありません。なにせ沖縄県の天然記念物に指定されているので、捕まえて口を開けて確かめてみる…というわけにはいかないのです。

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ナミエガエルの幼体。あっ、顔吸血されてますね^^;

あと文句なしにカワイイのが亜成体(オタマジャクシではないが、大人になり切ってもいないカエル)。ナミエガエルに限らずですが、カエルの亜成体は眼が体に対して大きくてキュートです。

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コロコロしていて、なんとなく団子を連想させます。「これは、アンコが入ってるに違いない!」とは友人のF氏談。

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亜成体も礫(れき)に擬態しているのでしょうね。夜間沢沿いを歩いていると、石の色にどうかしていてなかなか気づきません。

このナミエガエルですが、戦前、それから食糧難の戦後にかけては、「ミジワクビチ」(ミジ=水、ワクビチ=大型のカエル)と呼ばれて食料にされていました。大型で肉量が多く、しかも美味しかったそうです。その後、ナミエガエルの生息できるような沢や森の減少にともない、分布域・生息数ともに減少してしまいました(絶滅危惧IB類:EN)。

現在は県の天然記念物で、もちろん捕まえることも食べることもできません。ただ夜の沢に入って、「君、だんごみたいだな。中にアンコ入ってんじゃないか。じゅるり」と言いつつ写真を撮るのは自由です。

意外とオシャレな美しさを見せるツユムシの仲間

バッタやキリギリスの仲間はたいへん種類が多いのですが、その中でもツユムシは、多くの地域で最も身近な存在なのではないでしょうか。

そんなもん見たことねぇ!という方は今度、公園の草むらなんかをよく覗いてみてください。よほど街中でないかぎり、そしてよほど徹底的に虫が駆除されていない限り、茂みの草の中にはたいてい何らかの種類のツユムシの仲間がいます。

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ツユムシの仲間の幼虫。ここまで小さいと種類はよく分かりません。沖縄県大宜味村にて。

もっとも、全身緑なので慣れないと見つかりにくいのですが。この瑞々しい緑色は生きている時限定で、標本などにしてしまうと色あせた色になってしまいます。

ツユムシはキリギリスの仲間(キリギリス科)の中では華奢で脚も細く、弱々しい印象を受けます。実際、獰猛な肉食性の昆虫が多いキリギリスの仲間には珍しく、完全な草食性です。過密で飼ったりすれば共食いしないとは言い切れませんが。

さて、緑一色の種類も美しいのですが、ツユムシの仲間には意外なほどオシャレな色彩をまとうものがいます。

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ナカオレツユムシ Isopsera denticulata 沖縄県大宜味村にて。

こちらはナカオレツユムシの幼虫(Tさん、ご教授ありがとうございます!)

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緑の体に赤紫の目と脚。かなり大胆な小悪魔的コーデと言えるのではないでしょうか。そうそう、写真に撮ると中々ピント範囲に入らないですが、ツユムシと言えばシュッと長い極細の触角もチャームポイントです。

ただ幼虫はこんなにオシャレなのに、成虫になると全身緑のごく平凡なツユムシになってしまいます。大人になって「いい加減、小悪魔とか言ってる場合じゃないか…(溜息)」とスーツに身を包む感じでしょうか。

そして今回、意外に美しいな〜と改めて思ったのがこちらのオキナワヘリグロツユムシ Psyrana ryukyuensis

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ヤブニッケイの葉にとまるオキナワヘリグロツユムシ。沖縄県東村にて。

翅に、マスクメロンの模様をごく細かくしたような模様が入ります。また翅は黒く縁取られます

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捕獲してみた

「葉に紛れやすい」と言っちゃえばそれまでですが、大変シックでオシャレだと思います。

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かっちり撮ってみた

ツユムシの仲間としては大型で体もがっしりしています。

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ハイキーに振ってふんわり撮ってみた

ちなみに、熱帯にはもっとはるかにカラフルなツユムシの仲間が生息しています。緑の地にパステル調の赤・青・黄が入るツユムシの写真を見せられた時は度肝を抜かれました。一度は実物を見に行ってみたいですね。

さて、最後になりますが、ツユムシの仲間はかなり体が柔らかく華奢なため、イナゴなんかのノリでつかむとすぐ潰れてしいます。あまり無理な捕まえ方をせず、できるだけ優しく扱いましょう。

倍率は10倍?20倍?オススメ機種は?野外での生物観察に適した繰り出し式ルーペについて、スペックや使ってみての実感など

繰り出し式のルーペは、野外で使うもっとも基本的な観察道具のひとつです。

今は顕微鏡を小学生のうちから扱うことが多いので、ルーペに対しては「今ひとつ道具としてのステイタス感にかける」「地味」というイメージが染み付いてしまっているようです。が、使いこなせばこんなに便利なものはありません。

「ちょっといいルーペ」をポケットに忍ばせて出かけるだけで、身近な自然が冒険の世界にも…なるはずです。多分。きっと。

そんなわけで今回は、山や海辺などの「野外での自然観察」に最適なルーペの選び方、オススメのルーペについて、実際に使ってみた実感を軸に書いてみます。

機種の選び方・買い方について

①倍率は7倍から10倍程度で

分かります、分かりますよ!5倍よりより10倍、10倍より20倍と「拡大率が大きいこと」に心くすぐられるその気持ち。

が、ちょっと待って下さい。ルーペは倍率が高ければ高いほどいいというものでもなく、ちゃんと観察目的にあった適当な倍率というものがあります。

倍率が大きいことのメリットはもちろん対象物が大きく見える、より細かいところまで見えるということですが、一方で次のようなデメリットもあります。

  • 見える範囲がせまくなる。どこを見ているか分かりにくいし、動くものを見る場合、見失いやすい
  • ピントが合う範囲が極端に狭くなる(ピントが浅くなる)。物↔ルーペのピント合わせの距離が大変シビアになり、神経を使う。また、奥行きのあるものが観察しにくい
  • 長時間使うと手ブレにより酔いやすい

室内で細かいもの、特に鉱物や宝石などを観察・鑑定する場合は20倍以上もアリですが、野外の自然観察に限って言えば、高倍率は文字通り「無用の長物」となってしまいかねません。

野外で持ち歩いて昆虫の顔や脚、植物の細かな構造など、特に観察する対象を限定せず色々見たいのならば「10倍」が最も使いやすいと思います。

7倍、8倍は少し拡大率が落ちる反面、上の高倍率のデメリットとちょうど逆のメリットがあります。あまり視力に自信がない方、ルーペに不慣れな方は7倍や8倍でもいいでしょう。

一方、肉眼でなかなか見えないものまで見たいなら、5倍などではやや倍率不足です。

②レンズ径があまり小さいものは野外で不利

レンズが小さめのルーペは視野が狭く、暗く感じられるため野外での観察にはあまりオススメできません。レンズの「有効径」が15mm以上くらいが良いでしょう。

ちなみにルーペには「宝石鑑定(あるいは鑑賞)」というかなりメジャーな用途が存在します。宝石鑑定用のルーペには高品質なものが多く、中でもプロの鑑定士に人気なのが、あのNikonが出している10倍のルーペ(品名:宝石鑑定用ルーペ 10×)だそうです。

Nikonのカメラのファンやユーザーなら反射的にポチってしまいそうな製品ですが、ちょっと待った!このルーペ、有効径が13mmしかありません。

持ってる方に覗かせてもらいましたが、大変クリアに見えるものの、野外でラフに観察するにはちょっと視野が狭いなと感じました。

メーカー 型番  倍率 レンズ径

市場価格の目安

Vixen   M20S  10倍 20mm 2,000円前後
Vixen  M16N  10倍  16mm 3,000-4,000円
Vixen   M17N  10倍  17mm 4,000-5,500円
Nikon  宝石鑑定用ルーペ  10倍   13mm 5,000-7,000円
Eschenbach  1176-10  10倍  23mm 6,500円前後
Eschenbach 1182-10   10倍  23mm 6,500円前後 
カートン光学  R7529  10倍  22mm  〜9,000円
カートン光学

 R2450

(カリナンPRO)

 10倍  18mm  10,000円前後
Zeiss   D40  10倍  13mm

12,000円前後

↑各メーカー定番商品の倍率10倍のルーペのレンズ径比較。もちろん、レンズ径が良ければそれで良いというものではありません。

③レンズは、できれば2枚構成以上の高品質なもので

3倍くらいまでだとあまり感じませんが、倍率が10倍ともなると、品質の悪いレンズだと像のゆがみがひどく、見ていて疲れます。また、ピントが合った部分の像がいまいちハッキリしないものもあります。これらはレンズの「収差」によるものです。

収差:いろいろな要因で、一点から出た光線の束が完全には一点に集まらないこと。

高品質なルーペにはレンズを2枚(ダブレット)、3枚(トリプレット)と組み合わせたり貼り合わせたりすることで、1枚のレンズの欠点を補う(収差補正をする)設計になっているものが多くあります。

ただし、ダブレットやトリプレットだから良いというものではなく、レンズ1枚構成のもので比較的見えのよいものや、その逆もあります。

一般的に1枚構成のレンズは、ルーペを眼に近づけてのぞき込む、いわゆる理科の教科書通りのルーペの見方ではあまり気になりませんが、レンズを対象物の近くに置いて少し眼を離して見る場合(例えば自分が持ったルーペを他の人がのぞくような場合)、像の歪みがかなり出ます。

ちなみにキュリオス沖縄では、ガイドが持つルーペは「トリプレット構成」のものを使用しています。これはべつにお客様に貸し出した道具より良い道具を使ってドヤ顔をしたい訳ではなく、ルーペの扱いに不慣れなお客様にガイドのルーペをのぞいていただく、すなわち上記のような使い方をする機会が多いためです。

(紛らわしいですが、複数のバラバラに動くレンズが収納されていて、重ねて使うと高倍率になるタイプは普通「ダブレット」や「トリプレット」とは言いません。一見1枚の分厚いレンズのように見えるのがそうです)

④オススメの機種、メーカー

価格は1000円台から一万円超え、さらには三万円台までピンきりですが、安くて比較的良いものもあります。

検索するとさまざまなメーカーが出てきますが、実際にルーペを製造している所は多くはないようで、ラベルだけ違って中味は全く同じ、なんてことも多々あります。下記に紹介しているのはいずれも製造を手がけているメーカーさんか、少なくともメーカーオリジナルの製品です。

Vixen

Vixenというメーカーが出している「メタルホルダーM20S(倍率10倍)」というルーペは、実売1700円弱と大変お手頃でオススメです。

メタルホルダーM20S。ストラップは付属しません

この機種のいいところは、10倍の倍率の割にレンズ径が20mmとかなり大きく、のぞきやすいところ。安いわりに像がきれいという定評もあります。実際使ってみてもかなり見やすいです。

野外で落っことしたり汚したりぶつけたりということを考えると、このくらいの価格帯がちょうどいいのかもしれません。ちなみに「キュリオス沖縄」のツアーでお客様に貸し出しているのもこの機種。

こと、野外観察での実用性に関してはピカイチで、よくこんな価格でこんなモノが作れるなぁと思ってしまいます。

レンズはガラス、そのほかは総金属製です。繰り出し部分の動きが個体によって固かったり、逆にゆるかったりもしますが、造りはこの価格にしては決して悪くないと思います。

横から見たところ

Vixenのメタルホルダーシリーズには、この上に「M16N(レンズ2枚構成)」「M17N(レンズ3枚構成)」がありますが、価格がだいぶ高くなる上にレンズの有効径は16mm, 17mmと「M20S」と比べるとやや小さめになります。

この値段になってくると、下記のルーペで有名なブランドの商品とそう差がなくなってしまいます。やはりM20Sのコストパフォーマンスの良さはぶっちぎりだと思います。

コレに付属しているのもM20Sっぽいですね。Vixen 「コケ観察セット」

追記:その後、M16Nも買ってみました。実勢価格で2600円ほど。

あ、コレいい…!

視野の端まで像がきれいなので、レンズ径の小ささはあまり気になりません。周辺部はもちろんですが、中心部のシャープさでもM20Sよりも上。コントラストも色乗りもいいです。

というわけでM20Sよりちょっと良いものが欲しい方にも大変オススメです。

その他、5000円前後のルーペ

もっと高い物じゃなきゃ格好がつかん!という人は、だいたい¥5000くらいの価格帯の中から選んでみるといいでしょう。

このくらいの価格帯だと、ダブレットやトリプレットの優秀な機種がエッシェンバッハ、カートン光学などの有名どころからいろいろと出ています。

ただ、この価格のものを野外でガンガン使うかどうか、は意見が分かれそうなところです。

個人的な一番のオススメは「Peakの×7」

ちなみに、僕はPeak(東海産業)というメーカーの7倍のルーペ(1985-7)を使っています。

Peak 1985-7

ドイツの光学機器メーカーがかなり古い時代に開発した「シュタインハイル構成」という、3枚貼りあわせ(トリプレット)タイプのレンズ構成を採用していて、非常に像がシャープです。

倍率は7倍ですが、解像感とコントラストがすばらしく細部が見やすいため、実際の観察においては先ほどのメタルホルダーM20S(10倍)と比べてもより細部が見えます。のぞき比べると「あれ、どっちが10倍だっけ?」と思うほど。

色が非常に濃くきれいに出るのも特徴で、構造などを確かめるだけでなく、鑑賞用途にも向いています。

レンズ径は16mmと、先ほどの「メタルホルダーM20S」に比べれば小さめになりますが、視界の隅々までシャープに見えるので特に視野が狭い感じはしません。

相場はだいたい4,500-5,500円くらいでしょうか。この価格帯の中では圧倒的にオススメです。

レンズはガラス、レンズのケーシングは金属、本体はプラスチック製で、繰り出し式ではなく、まっすぐシュッと引き出すような造りになっています。

側面をつまんで引き出します

これは首に下げた状態からワンタッチで引き出せて大変便利なのですが、欠点として、引き出す部分が使っているうちに緩くなり、スポッと抜けてしまうことがあります。

横から

他にも、10倍、14倍、20倍がラインナップされています。(いつの時代のHPだよ!って感じのレイアウトですが、嫌いじゃないですこういうの)

その他、10,000円からそれ以上

お金に糸目をつけないから高品質なものが欲しい、という方へのオススメはカートン光学の「カリナンpro」というモデル。

実売10,000円くらいしますが、倍率×10の高品質なトリプレットにもかかわらず、レンズ径が18mmもあります(大きな高品質レンズ、というのは高価なのです)。実は僕はこの製品を覗いたことはないのですが、どのレビューを見ても良好な評価で、スペック的にも大変使いやすいのではないかと思います。

究極に格好をつけたい向きには、ドイツの老舗名門光学メーカーであるZeissが出しているルーペなどもあります。

10倍のモデル(D40)で実売¥13,000ほどもしますが、持っているだけでレンズマニアから熱い視線を集めること間違いなしです(笑)。僕もちょっと欲しいです。

品質は確実で定評もあります。ただ、宝石屋さんでのぞかせてもらったことがありますが、レンズ径は13mmと小さめなこともあり、野外用として考えると少し覗きにくかったです。なにより高い。。

⑤肉眼と明らかに違う世界をのぞくなら、15-20倍も

さて、野外観察に使うなら10倍くらいまでがいいよ!と書きましたが、7-10倍のルーペをさらに持っていて扱いに慣れており、さらに細部を観察したい!という人には15-20倍のルーペもオススメ。

たとえば、ルリハコベの花の、花粉の粒ひとつひとつまでハッキリ見たいと思ったら15-20倍が必要です。

Peak 1985-14

7倍が大変良かったのでpeakの14倍を買ってみましたが、こちらも大変良いですね。

レンズ径もだいぶ小さく(12mm)、ピント合わせもシビアになりますが、色乗りの良さとシャープさは7倍と同様。

⑥できれば実物をのぞいて選びたい

スペックや評価などはWebで検索すればたくさん出てきますが、見やすい・見にくいといった使用感は、個人の感覚にもかなり左右されます。できれば実物をのぞき比べて選びたいもの。

ただし、いろいろなルーペの在庫を常に抱えているのは、よほど大きなカメラ用品店、専門的な昆虫用品店などに限られます。沖縄に住んでいるとルーペを店頭で見られるところはほぼなく、Webの情報を頼りに探すしかありませんでした。

⑦安く買いたいなら、いろいろな所で見よう

価格を調べていて思ったのは、店舗によって価格に本当に開きがあるなーということ。

正直、どんな商品でも「1円でも安く買おう」という考えには、いち消費者としてあんまり賛同できません。

ルーペを店頭で比較させてくれて、いろんな情報を教えてくれる親切な店があったら、多少高くてもその店で買いたいと、僕は思います。ルーペを在庫するコストや、店員さんの人件費だってそこに乗ってるわけですし。

ただ、ルーペという万人が使うものではない商品の性質上、たとえばカメラなどに比べてもかなり価格は不安定です。下手すると倍以上違います。

極端な例だと、先に挙げたNikonの宝石鑑定用ルーペはメーカーHPに掲載されている希望小売価格が8,800円(税抜き)で、定番商品でもあり特に品薄でもないのですが、ネット通販で14,200円で販売しているところもありました。別に違反でも何でもありませんが、さすがに消費者の無知を突いていると言われても仕方ない価格設定です。

逆に、平均的な相場の7割くらいの価格でカメラ用品、ゴルフ用品、ブランド商品などを取り揃えるネットショップは十中八九明らかな詐欺サイトですので、相場をチェックする癖はやはり大事です。

ルーペの使い方、ルーペを使う上での注意点

ここからは、基本的なルーペの扱い方について。

太陽を見ない

絶対に、絶対にルーペで太陽を見てはいけません。

ルーペで枯れ葉や紙を焼いたことのある方なら分かると思いますが、あれと同じことが人間の目の網膜にも起こります。考えただけでも恐ろしいですね。たった1度でも、十分に失明の危険があります。

特に、お子さんに貸したり買い与えたりする場合はよくよく注意しましょう。ルーペを目に当てたまま上を向いて観察対象を探すような動きも厳禁です。

また、野外でルーペを使う場合、観察する対象に気を取られすぎて足元や頭上への注意がおそそかになりやすいので気を付けましょう。「歩きスマフォ」ならぬ、「歩きルーペ」でつまずいて転んだ友人もいます。

ルーペの覗き方

教科書には「まず眼とルーペを近づけて、対象物を見やすい(ピントの合う)位置に持ってくる」とあります。

ルーペに目を近づけて…
のぞく!

これはこれで正解なのですが、ルーペで観察したい対象物がいつも自由に持ち上げられるとは限りません。

例えば、持ち上げられない大きさの岩の表面を観察する場合、対象物を動かすことはできないし、かと言って眼とルーペをまず近づけてからピントを合わせにかかると、観察しようとする箇所を見失うか、悪くすれば頭を岩に激突しかねません。高い位置のものを見ようとしてこれをやると、間違って太陽を覗いたりすることにも繋がり、大変危険です。

このような場合には、観察するものとルーペをまず近づけ、それから覗き込んでルーペの位置を微調整します。観察する対象物によって使い分けましょう。

また動きまわる昆虫などは、小さめな透明のケースなどに入れてしまうとルーペで観察しやすくなります。

ルーペのクリーニング方法

野外で使っていると、ルーペのレンズにも当然さまざまな汚れが付着してきます。

ルーペはカメラのレンズと違って水洗い可能なので、下手に拭き取るよりは洗ってしまいましょう。食器用洗剤をごく少量つけて指でこすれば、油性の汚れも落ちてくれます(このくらいでレンズのコーティングが傷むことはありません)。

あとは、キッチンペーパーなどで水分を拭き取ればOKです。拭き残りが気になるなら、仕上げにレンズクリーニング液を染み込ませた布で拭けば完璧です。

100均のメガネクリーナーで十分

研磨剤つきのスポンジでこすったり、砂がついたままの状態でレンズクリーナーで拭き取ろうとすると、レンズに傷が入るので要注意。

ただ、野外で使うルーペにカメラのレンズほど神経を使う必要はないと思います。

フィールドに、ルーペを持っていくということ

おわりに。ルーペはとても重要な観察ツールの一つです。

冒頭にも書きましたが、もし子供の頃から学校などで顕微鏡が身近にあったがためにルーペを軽視してしまうなら、こんなもったい事はありません。

試料を持って帰って顕微鏡で検鏡するのはもちろん大事ですが、野外でその場でサクッと拡大して観察できるというのはとても大切なことです。

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10倍や20倍くらいの倍率だと正直、顕微鏡などと違って「どう頑張っても肉眼で認識できないものが見える」という倍率ではありません。

その代わり「肉眼で観察したもの」と「ルーペで覗いた像」との関連を頭の中で結びつけやすく、ルーペで観察する癖をつけると肉眼で見ても「何となく」分かるようになったりします。

身の回りのものを、身近なフィールドの生物や鉱物を片っ端からルーペで覗いてみることは、肉眼での観察力を鍛えることにもなるのです。

(by 宮崎)

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カエルだって気が向けば海を渡る…こともあるーリュウキュウカジカガエルー

今日ご紹介するのは「リュウキュウカジカガエル」というカエル。

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リュウキュウカジカガエル Buergeria japonica

色は灰色〜褐色で、脚に暗色の縞模様があるのが特徴。

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石に紛れる

沖縄では大変ありふれたカエルで、山間部から平地の池や沼、それになんと海岸にまで分布しています。

これは本土の「カエル通」な人からするとちょっとビックリ情報かもしれません。なにせ本土のカジカガエル Buergeria buergeriは山の中の清流にしか見られないカエルとして有名だからです。リュウキュウカジカガエルの方はカジカガエルと違って暑さにも塩分にも強く、水気さえあればいろんな環境に節操なく出てきます。

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瞳が楕円形でカワイイ

さてこのカエル、実はかつて海を渡って分布を広げたのだろうと考えられています。

琉球列島の中のトカラ列島の「悪石島」と「宝島」の間には、生物の分布を分ける線「渡瀬線」が存在します(…というより生物学者が引いた線なのですが)。琉球列島は海面の上昇・下降にともなって島同士が陸続きになったり離れたり…を繰り返しているのですが、この場所には通称「トカラギャップ」と言われる水深1000m級の海溝があり、海面が下がった時期もずっと生物の移動を妨げていたと考えられます。

なので、特に飛んだり海を渡ったりできない生き物は、この線をまたいで分布が途切れていたり、この線を堺に南北で別々の種類に分かれていたりしていることが多いのです。

Tominaga2015改
Tomonaga, 2015 改

カエルなんて普通は、海を越えられない生物の代表格と考えられています。

ところがこのリュウキュウカジカガエルは、この渡瀬線をはさんで南北に遺伝的にとても近い個体群が生息しています(Tominaga et al, 2015)。詳細な遺伝的解析で、この個体群は人が持ち込んだものでもないことが分かっています。これがどういうことかというと、いつかのどこかで、リュウキュウカジカガエルのオスとメスが流木などに乗って島の間の海を渡り、分布を広げたのだろうということ。

肌の強いトカゲならともかく、両生類であるカエルはそんな事をできないのでは…というのが通説でした。ところがリュウキュウカジカガエルは海岸でも生きられるツワモノ。この性質があったからこそリュウキュウカジカガエルは海を渡れたし、またそもそも嵐の時に海に流される機会が多かったのではないか、と考えられています。

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沖縄本島南部の森で出会った個体

と言っても、台風の度にカエルが海を渡るワケではありません。千年に一度でもいいから、たまたま海に流木と一緒に流されたカエルのオスとメスがたまたま生き残って海を越え、子孫を残せばこの話は成立するのです。

とはいえ、この話を聞いてしまうと、真っ青な海にポツンと浮かぶ流木に必死にしがみついて旅をするリュウキュウカジカガエルを想像せずにはいられません。

(by 宮崎)

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植物で遊ぼびまくろう!理科の先生のための「理科であそ部」第5回

キュリオス沖縄が協力している理科の先生向けのイベント「理科であそ部」第5回の様子をご紹介します。

「理科であそ部」とは(Facebookページはこちら

「理科であそ部」は、身近なところにひそむ科学を遊びながら学ぼうというコンセプトのもと、教員や科学教育に携わる人たちが集まって活動しています。自分の中の「科学の扉」が開けると、今まで見ていた世界と全く違った世界が見えてくるはず!教材や授業ネタを提供しあって、明日からの授業がレベルアップを目指します!

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と言っても今回の「先生オブ先生」はキュリオス沖縄のメンバーではなく、若き現役高校教員の中村元紀先生!中村先生のレクチャーのもと、今回は沖縄の身近な植物でとことん遊ばせてもらいました!(以下クォーテーションの中は、中村先生のしゃべった内容をうろ覚え&ダイジェストで再生)

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そして今回も、若手を中心に多くの県内の教員の方々が集まり。休日にもかかわらず…!

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一番手前の葉っぱは、沖縄県内の方には馴染み深いのではないでしょうか。

机には開始時点でいろいろな植物の葉や枝が山盛りにされています。さながらサラダバイキングの様相ですが、何に使うのかな…?

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植物というと「動かない」「普段、風景としか見ていない」ゆえに、特に子供たちや若い方にとって、興味の対象になりにくいという側面があります。しかし、そこは「見せ方」次第です。

ほう!
というわけで、まずは見て触ってにおいを嗅いで、五感で感じてみました。

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初めは無理に名前を覚える必要なんて全くなくて、「そうそう、これはこんな奴だった!」という印象に残る形で植物との「関係」を築きます。「くさいやつ」「ザラザラしてるやる」「白い汁が出るやつ」そんなんでいいんです。

おー、ざっくりしてるな(笑)でも言われてみればなるほど。ドクダミの匂いとか久々に嗅ぐと、ものっそい勢いで少年時代とか思い出しますもん。

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そうやって自分が「馴染みになった」植物に街中や公園で出会うと、とたんに親近感が湧いてきます。「お前、ここにもいるじゃんよ…!」みたいな。

子供たちにそれを感じてもらうためには、まずは先生が植物で遊び倒さなくてはなりません。分厚い理論書とかはひとまず脇に置いて、自分が体験者となりましょう。

というわけで、僕らも参加者となり植物を嗅ぎまくりーの、触りまくりーのしました。

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ちなみにこちらはゲッキツ Murraya paniculataというミカンの仲間の葉。鳥が種を運ぶので、県内だと庭先に森の中に、どこにでも生えているそうです。

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ちぎって匂いをかいでみると、ほのかに柑橘系の香りがしました。最近はブレンドしてお茶としても利用されていますね。ちなみにゲッキツ、これ全体で「1枚の葉」だそうです。

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モクマオウ Casuarina strictaの葉

こちらはあちこちの海岸で見かけるモクマオウの葉。一見マツの葉にも似ていますが、マツが裸子植物なのに対して、モクマオウは実はれっきとした被子植物の仲間だそうです。

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この茶色い小さな突起一つ一つが「葉」とのこと。「1枚の葉」と言っても、植物によってその形は想像以上に多様ですね!

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サラダバーではありません

さて、お次はイチジクの仲間(イチジク属 Ficus)の植物の仲間の葉っぱ7種を見分けてみます。

机の上には、山盛りになっているのがゴチャ混ぜになった7種の葉っぱ。こ、これを全部分けるだと…?

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ここに「ガジュマル」「イヌビワ」「ホソバムクイヌビワ」「オオバイヌビワ」「ハマイヌビワ」「アコウ」「オオイタビ」の7種の葉っぱが混じっているとのこと。イチジクの仲間と言われるとピンと来ないかもしれませんが、沖縄で最もよく見かける「ガジュマル」も実はイチジクの仲間です。

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ぱっと見、カードバトルをやってるようにも見えます

漠然と見ていると分かりにくいですが、葉脈や葉っぱの縁の形状、葉のサイズや触ったときの質感などに注目して、

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ああでもない、こうでもないと分けていくこと10分ほど。

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なんと、全班がほぼ正しく分類することができました。

人間の認識能力ってすごい!…というか、もともと人間の認識に則って生物を種類分けしていくのが「分類」で、「分類したがる」というのは人間の性(さが)のようなものなのでしょうね。

ここでちょっと屋外に出ることに。

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会場となった琉球大学の教育学部の周りだけでも、実に多くの種類の植物が見つかります。

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持ち帰ったイチジクの仲間(イヌビワ)の花(実)を割って、顕微鏡で見てみましょう。

何が出るんでしょう。中身、美味しそうだといいな。wktk(わくてか)しながら実を割ってみました。

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うぎゃーーー!!

出てきたのはこんなハチの仲間のイヌビワコバチ Blastophaga nipponica  ハチと言っても人を刺すことはない昆虫だそうです。

このハチはたまたま入っていたわけではなく、イヌビワの花粉を運ぶ手助けをしています。またこのハチも、イヌビワの花がないと繁殖できません。

イチジクの仲間には、それぞれの種類に「専属」のイチジクコバチの仲間がいて、もっぱら花粉の運搬をその1種類のハチに頼っています。

なにその独占契約。一体どうやって成り立ったの…?

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こういうのは本で読んで知るよりも、実際に実を割って中からわらわらとハチが出てくるところを観察した方が絶対に印象に残りますね。

こんな感じで、今回の「理科であそ部」も超楽しませてもらいました!!中村先生、琉球大学教育学部の皆さん、ありがとうございます!!

 

造花よりなお”作り物っぽい”植物「サクララン」咲いてました!【沖縄の野生植物】

造花って、好みが分かれますよね。

多少手間がかかっても生きている植物を置く方が好きな方もいるでしょうし、一方で世の中、生花が置けない現場で造花が大いに活躍しているのもまた事実。

さて、今日紹介するのはそんな問題も吹き飛ぶくらい「造花っぽい」生きた植物。そんな植物が、沖縄にはもともと自生しているんですね。名を「サクララン」といいます。

サクラランとは

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サクララン Hoya carnosa こんな感じのつる性の植物です

桜なのか蘭なのか分からないような名前ですが、どっちの仲間でもなく「ガガイモ科」という科に属します。園芸業界では学名の属名の部分を取って「ホヤ」と呼ばれたりもするようです。

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沖縄の石灰岩地の森にごく普通で、岩にしっかり根を張って育ちます。石灰岩地に生息する植物には、土なんかなくても発芽して、そのまま石灰岩に貼り付きながら成長可能な植物が多く見られるそうです。

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こんな感じの根で石灰岩をがっちりホールド

葉は限りなくソフビっぽい質感

特徴的なのは何と言ってもやたら厚ぼったい葉。ツヤ感や重さなども相まって、懐かしの「ソフビ人形」にそっくりの感触です。オフィスにあったら多分、10人中10人が「やけに作り物っぽい造花だな〜」と思って通り過ぎるはず。

さて、石灰岩地に普通に見られると書きましたが、この植物、なかなか花を咲かせてくれないそうです。

崖などから大きく垂れ下がるような場所でないと花をつけないらしく、株自体はいくらでもあるのに花はなかなか目にすることができない…ということがよくあります。つい先日も、サクラランの株がいっぱいある沖縄本島南部のフィールドに花の写真を撮りに出かけ、現場でカメラを持ったおっちゃんに「1か所だけ咲いてたけどもう終わったよ〜」と言われ玉砕したばかり。

プラスチック製?と見まごうような花

それが、本日沖縄本島北部の石灰岩の山に入っていた時のこと。

この辺サクラランが多いし、こんだけ垂れ下がってたらどこか花つけてないかな〜?

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ん、あれはもしや…

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わ、やっぱりサクラランfl(花)だ!実は、間近でちゃんと見るのは初めてだったりします。

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半球状に花が集まった花序(かじょ)

噂通りカワイイなぁ…と思って近づいていくと…

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120mmのレンズによるクローズアップ

あ、あれぇ?何か思ってたのと違う…何この「作り物感」…

喩えるなら、人間だと思って近寄って行ったらマネキンだった、的な気持ち悪さと違和感。もちろん、普通の生きた花です。もともとこういう花なんですね。写真ではちょっと伝わりにくいですが、まるで幼児向けの玩具(それも安物)みたいな質感とディテールです。

というわけで、今日はちょっと珍しいものを見ることができました。憧れが砕け散るのと引き換えに、ですが。。

ちなみに、ここのフィールド自体はこのツアーでご案内しているフィールドなのですが、サクラランが咲いていたポイントは本道から脇道にかなり入った先、さらに藪の中なので、危なくてお客様をご案内することはできません。ご了承下さい。

追記:この後、ツアーのルート上でも咲いてくれました!

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(by 宮崎)

 

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ナナフシの七不思議その①:「ナナフシモドキ」という名前の謎

勢いで七不思議とか書いてますが、7つ思いついた訳ではありません。でも結構ナナフシネタは引っ張れそうな予感がします。とりあえずその①。

動物・植物を問わず、生物の名前(和名)には「◯◯モドキ」というネーミングがよく見られます。たとえば、

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クロイワトカゲモドキ

とか…

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トウヅルモドキ

とか。「モドキ」は「〜に似て非なる」という意味で付けられることが多いです。分類群的に近い場合もあれば、遠い仲間である場合もあります。

さて、「ナナフシ」という昆虫の名前を聞いたことがあるでしょうか?

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こんなの。ちなみに左が頭です(オキナワナナフシ Entoria okinawaensis

こういう感じで樹の枝や葉柄のフリをしてじっとしています。色は緑や茶色など。

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オオバギの葉脈のふり(?)をするオキナワナナフシ
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捕まってもまだ枝のふりをするナナフシ

ナナフシには様々な種類がいるのですが、

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コブナナフシ

実は、ナナフシの仲間(ナナフシ目)の名前の背負う本家本元の“ナナフシ”の和名がなんと「ナナフシモドキ」となっています(沖縄にはいません)。本物なの?偽物なの?と突っ込みたくなりますね。さらにおかしなことに、この「ナナフシモドキ」、別名で「ナナフシ」と呼ばれることもあります。

ナナフシ=ナナフシモドキ

なぜこんな事になっているか、種明かしをするとこうです。

「ななふし」とはもともと「七節」、つまり節くれだった樹の枝を指し、その樹の枝に大変よく似ている(うまく擬態している)昆虫に「七節もどき」という和名が与えられたというわけです。それが短くなって「ナナフシ」と呼ばれていると、こういう訳です。

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こんな体形ゆえナナフシの仲間は動きが速くなく、身を守る武器らしい武器も持っていません。ひたすら自分の擬態に全幅の信頼を置いてじっとしています。「昆虫版ナマケモノ」といったところでしょうか。

そんなナナフシを見つけるコツは、ひたすら「そういうモノ」がいるという前提で草木を見ること。いるところにはたくさんいて、1個体見つかると不思議と次々に見つかります。

(by 宮崎)DSCF0284

自宅の裏の神社に夜行ってみたら、オカヤドカリのデカいのがわんさか…!

大きいオカヤドカリは希少?

特に観光客の方の中には、「沖縄の生き物」と言えばこの「オカヤドカリ」を思い浮かべる方も多いと思います。

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多分、いや間違いなく、連続テレビ小説「ちゅらさん」のOPの影響でしょうね。Kiroroの「Best Friend」のピアノイントロとセットで記憶に残っている人も少なくないはず。

浜辺でよく見かけられるのは500円玉大のものが多いですが(ちゅらさんのOPもそのくらい)、このオカヤドカリ、実は結構大きくなります。

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このくらいあれば「大きい」と言って差し支えないかと

ただ、地元の方同士の話でも、大きい個体は「今はもうなかなか見ない」「北部か、離島に行かないといない」というのをよく聞きます。

ところが、那覇市内の僕の自宅のすぐ裏の神社に夜行ってみたところ、ちょっと参道をはずれた場所にこんなサイズのオカヤドカリがわらわら…

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スケールを置いていませんが、Lサイズの鶏卵より大きめ

めんどくさくなって1個体しか撮りませんでしたが、そこらじゅうにゴロゴロいました。

そう、オカヤドカリは大きくなると、かなり海から離れて棲む傾向があります。海岸から続く森なんかが残っている場所だと、浜辺には硬貨サイズしかいないのに、海抜50mも60mも登った森の中に大きいのがわらわら…ということがよくあります。

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南部の石灰岩林の個体

そう、森が海に繋がってさえいれば…ってあれっ?

※いつもは乱獲などのリスクを考えて希少な生物の生息地を載せない方針なのですが、オカヤドカリは数がいる割に天然記念物指定がかかっていて乱獲の対象になりにくいので載せています。

ポイントした場所がその神社なのですが、オカヤドカリが海まで行くルート…今はもう無いんじゃない?ということは、こいつら一体どこから来たの…?

オカヤドカリの生活史

ここで簡単にオカヤドカリの生涯について説明しておきましょう。

オカヤドカリは陸での生活にたいへんよく適応したヤドカリですが、もともと海に暮らしていたヤドカリの仲間から進化したと考えられています。そのため、普段の生活は森の中で大丈夫なのですが、子孫を残すには海に降りる必要があるのです。

夏の大潮の夜、満潮の時刻にオカヤドカリのメスは、受精し発生が進んだ(生まれる直前の)卵を抱えて海に降ります。

そして、波しぶきのかかる岩にしがみつき、波がかかるタイミングで卵を海に放ちます。卵は海に放たれたと同時に孵化し、「ゾエア幼生」と呼ばれる形態になります。その後、海中を漂う生活のうちに何度か変態を繰り返し、「グラウコトエ幼生」という形態に変化してはじめて貝殻を背負い、上陸します。

つまり、すべてのオカヤドカリは海で生まれて陸に登ってきた個体なのです。

住吉神社のオカヤドカリはどこから?

もう一度地図を見てみましょう。

一見海に近いですが、最寄りの海はほとんど岸壁しかない那覇港。そしてそこからの陸路には片側2-3車線の幹線道路が立ちふさがっています。ここで上陸して移動してくるとは、ちょいと考えられません。

西の方角にはマングローブ林があってそこにもオカヤドカリはいますが、かなり離れている上に間は数キロの間ずーっと人口密度の高い住宅街です。

もしかしてですが(と言うより、そうでないことを祈りますが)このオカヤドカリの個体群は、住吉神社から海までの道がつながっていた時の生き残りでは…?オカヤドカリはかなりの長命で、20-30年は当たり前に生きると言われています。ことによると50年くらい生きるかもしれません。やけに大きな個体ばかりだったのが気になります。

まぁオカヤドカリの移動能力はけっこう凄いので、もしかしてこう見えて海から移動してこれるルートがあるのかもしれません。あるいは、子供が大量に捕まえてきて、裏山に離した…なんてオチかもしれません。

いずれにせよ、ここのオカヤドカリ個体群にはちょっと興味を引かれます。周辺の地理を含めて、もう少し追ってみようと思います。

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