巻貝っていいですよね。あの美しい螺旋、様々な形や色。いくら見ても飽きません。
そんな素晴らしい巻貝の世界を簡単に覗けるのがカタツムリ観察です。カタツムリは人家から山の奥まであらゆる場所に様々な種が生息しています。じっくり観察してみると、種によって形や色、大きさ、いる場所などが違っており、その楽しさに一度はまるとなかなか抜け出せない沼です。今回は沖縄島で観察できる様々なカタツムリたちを紹介していきます。
有肺目
カサマイマイ科
オオカサマイマイ
沖縄島の全域で見られるカタツムリです。殻は茶色で非常に平たくフリスビーみたいな形をしています。朽木を食べているのか、立ち枯れや倒木の周りにたくさんついていることが多いです。森の中で観察できます。
キセルガイ科
キセルガイの名の由来は、細長い形をたばこを吸う道具である煙管になぞらえて名前がついています。巻貝のほとんどは右巻きですが、キセルガイ科の多くは左巻きの殻を持ちます。
オキナワギセル
沖縄島の本部半島と中・南部の森林内で見られるカタツムリです。森林内の生きた木の幹についている姿を見かけます。殻は全体的に茶色で、成貝は先端が折れていることが多いです。殻の表面に地衣類が生えて緑色っぽくなっていることがあります。
スジイリオキナワギセル
オキナワギセルと違い、沖縄島北部(特にやんばる)の森林内で見られるカタツムリです。見た目はオキナワギセルそっくりですが、殻に太くて黒い帯模様が入っています。こちらも生きた木の幹に張り付いている姿をよく見ます。こちらも殻の表面に地衣類が生えて緑色っぽくなっていることがあります。
ツヤギセル
沖縄島全域の森林で見られるカタツムリです。全体的に白っぽい色で、成貝になっても殻の先端は折れずに残ります。こちらは朽木の周りについているのをよく見かけます。
ノミギセル類
全長1cm程度の小型のキセルガイです。森林内で木の幹などをはっている姿を見かけますが、小さいため探しづらいです。沖縄島北部では3種ほどが確認されており、見分けるには殻の口の中の構造を観察する必要があります。
キセルガイモドキ科
ウスチャイロキセルモドキ
名前の通りキセルガイそっくりの見た目をした貝ですが、決定的に違うのはキセルガイとは違って右巻きの貝であることです。森林内で木の幹に張り付いている姿を見かけますが、あまり多くありません。海岸に近い森にはキカイキセルモドキという別の種類が生息しています。
ナンバンマイマイ科
イトマンマイマイ(イトマンケマイマイ)
沖縄諸島に分布するカタツムリで、殻全体にビロード状に毛(というよりは鱗のような突起)が生えています。沖縄島では北部の森林内で観察できますが、数は多くないです。
シュリケマイマイ
沖縄島固有種のカタツムリです。沖縄島内の石灰岩地帯に生息しますが、中・南部では非常に数が少なく局所的な分布になっています。平たい見た目で、縁には毛が生えています。また、殻自体も薄く、まだら模様のように見えているのは透けて見えている中身です。湿度が保たれている森の中の、石灰岩の表面で観察できます。
オキナワヤマタカマイマイ
沖縄島の中・南部に生息するカタツムリです。殻が高い円錐形になります。殻の模様は個体によって様々ですが、殻の下側や巻き部分の境目(縫合)が黄色っぽくなることが多いようです。湿度が保たれている森林の樹上で観察できます。沖縄県の条例により捕獲等は禁止されています。
シラユキヤマタカマイマイ
沖縄島の中・南に生息するカタツムリです。オキナワヤマタカマイマイに比べて殻が低く、そろばんの珠のような形をしています。殻の模様は個体によって様々です。湿度が保たれている森林の樹上で観察できます。沖縄県の条例により捕獲等は禁止されています。
ヤンバルヤマタカマイマイ
沖縄島の北部に生息するカタツムリです。以前はオキナワヤマタカマイマイとして扱われていましたが、殻がやや低く、生殖器の形も違うため別亜種とされています。こちらも殻の模様は様々です。湿度が保たれている森林の樹上で観察できます。沖縄県の条例により捕獲等は禁止されています。
オキナワウスカワマイマイ
沖縄島全域で最も普通に見られるカタツムリです。人家の庭や公園、林道沿いなど開けた環境を好みます。殻の色は黄土色から茶色です。かつてはチンナン汁の材料にもされていました。
シュリマイマイ
沖縄島全域で見られるカタツムリです。殻の直径は4cmに達し、在来のカタツムリとしては沖縄島最大です。オキナワウスカワマイマイと同所的に見られることもありますが、どちらかというと森の中を好みます。以前は沖縄島北部の個体群をヤンバルマイマイとして扱っていましたが、現在は同種と考えられています。沖縄島の中・南部ではよく似た見た目でやや小さいミヤコマイマイという種も生息しています。
パンダナマイマイ
沖縄島の全域で見られるカタツムリです。殻の周縁には赤い線が入ることが多いです。成貝になると全体的に丸っこくなりますが、全体的にやや平たいものから少し膨らんでいるものまでいろいろな形になります。同所的に生息する外来種のオナジマイマイによく似ますが、こちらの方が大型です。林縁から林内でよく見られます。
ベッコウマイマイ科
オキナワベッコウ
沖縄島固有の小型のカタツムリです。つつくとカタツムリとは思えないほどものすごい速さで飛び跳ねて逃げます。その行動から英語圏では本種に対してjumping snailという名前がついています。沖縄島全域の森林で地表付近で活動している姿を観察できます。動画は実際に飛び跳ねている様子です (動画が再生できない方は、こちらよりご覧ください)。
グードベッコウ (グゥドベッコウ)
沖縄島北部の山地で見られるカタツムリです。殻の直径は7mmほどで、他のベッコウマイマイ類よりも殻の巻数が多いのが特徴です。乾燥しているときは落ち葉の下などにいますが、雨がふると地表付近を活動している姿をよく見ます。
ベッコウマイマイ
沖縄島の特に北部の森でよく見られるカタツムリです。生きているときは外套膜で殻を被っているため殻がツヤツヤです。その美しさから鼈甲細工になぞらえてこの名前がついています。つついても軟体部をしまわず、できるだけ早めに歩いて逃げます。おしりの先が尖っていてかわいいです。
ヤマタニシ目
ヤマタニシ科
アオミオカタニシ
沖縄島の全域で見られカタツムリです。鮮やかな緑色の殻が特徴的ですが、実は殻自体は白色がかった半透明で、緑色なのは透けて見える中身です。偏食家なカタツムリで、すす病という病気に感染した樹木の葉にできる黒いカビを食べます。ヤマタニシ科に属し、マイマイ類とは違って触角の根本に目があり、蓋も持っています (写真では見えないですが…)。林縁沿いや林内の樹木の葉裏や幹などで周年観察できます。
実はUVライト (ブラックライト) で蛍光するので、夜間にいそうな場所を照らしながら歩くと割と簡単に見つけられます。
オキナワヤマタニシ
沖縄島のほぼ全域で観察できるカタツムリです。殻は非常に分厚く、とても頑丈です。本種もアオミオカタニシのように蓋を持ち、目も触角の根本にあります。沖縄島では他に北部にクニガミヤマタニシと南部にイトマンヤマタニシが生息しており、どちらも本種より小型ですが、見た目はかなり似ているようです。森林内の落ち葉や倒木の下におり、雨が降ると地表や岩の上などで活動します。
ケハダヤマトガイ
沖縄島北部の山地で見られるカタツムリです。殻の表面に微細な毛が生えるその姿は個人的にめちゃくちゃ好きです。つや消しの質感なのもいいですね。湿った森の落ち葉溜まりの中で見られますが、殻の直径は5~7mm程度で色も土や落ち葉にそっくりなので、地面に突っ伏してじっくり探す必要があります。
アマオブネ目
ヤマキサゴ科
オキナワヤマキサゴ
沖縄島のほぼ全域で見られる小型のカタツムリです。本種はマイマイでもヤマタニシでもない別のグループで、アマオブネガイという海にいる巻貝に近いです。眼は触角の根本にありますが、ヤマタニシ科のような蓋は持ちません。殻の直径が5mmほどと小さいため眼につきにくいのですが、森林内の低木や草本類の葉の上にいる姿をよく目にします。
ゴマオカタニシ科
フクダゴマオカタニシ
沖縄島の石灰岩地帯で見られるカタツムリです。オキナワヤマキサゴより更に小さく、大きくても2mm程度です。湿度の高い森の石灰岩の露頭などに張り付くようにして探すと観察することができます。いる場所には高密度で生息しています。
今回紹介したのは、比較的観察しやすいカタツムリたちですが、沖縄県全体ではなんと140種ものカタツムリが分布しています。その大きさや形、いる場所や食べ物も様々で、一度ハマるとなかなか抜け出せない沼です。また、カタツムリ類は海を超えて移動することができないため、それぞれの島ごとに進化を遂げ、それぞれの島に固有種が、つまり「ご当地カタツムリ」がいるのです。例えば、今回紹介したシュリケマイマイやオキナワベッコウは沖縄島でしか観察できないご当地カタツムリです。もちろん沖縄県以外も例外ではなく、それぞれの場所に固有のカタツムリがいます。皆さんもいろいろな場所を巡ってカタツムリ探しをしてみませんか?