倍率は10倍?20倍?オススメ機種は?野外での生物観察に適した繰り出し式ルーペについて、スペックや使ってみての実感など

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繰り出し式のルーペは、野外で使うもっとも基本的な観察道具のひとつです。

今は顕微鏡を小学生のうちから扱うことが多いので、ルーペに対しては「今ひとつ道具としてのステイタス感にかける」「地味」というイメージが染み付いてしまっているようです。が、使いこなせばこんなに便利なものはありません。

「ちょっといいルーペ」をポケットに忍ばせて出かけるだけで、身近な自然が冒険の世界にも…なるはずです。多分。きっと。

そんなわけで今回は、山や海辺などの「野外での自然観察」に最適なルーペの選び方、オススメのルーペについて、実際に使ってみた実感を軸に書いてみます。

機種の選び方・買い方について

①倍率は7倍から10倍程度で

分かります、分かりますよ!5倍よりより10倍、10倍より20倍と「拡大率が大きいこと」に心くすぐられるその気持ち。

が、ちょっと待って下さい。ルーペは倍率が高ければ高いほどいいというものでもなく、ちゃんと観察目的にあった適当な倍率というものがあります。

倍率が大きいことのメリットはもちろん対象物が大きく見える、より細かいところまで見えるということですが、一方で次のようなデメリットもあります。

  • 見える範囲がせまくなる。どこを見ているか分かりにくいし、動くものを見る場合、見失いやすい
  • ピントが合う範囲が極端に狭くなる(ピントが浅くなる)。物↔ルーペのピント合わせの距離が大変シビアになり、神経を使う。また、奥行きのあるものが観察しにくい
  • 長時間使うと手ブレにより酔いやすい

室内で細かいもの、特に鉱物や宝石などを観察・鑑定する場合は20倍以上もアリですが、野外の自然観察に限って言えば、高倍率は文字通り「無用の長物」となってしまいかねません。

野外で持ち歩いて昆虫の顔や脚、植物の細かな構造など、特に観察する対象を限定せず色々見たいのならば「10倍」が最も使いやすいと思います。

7倍、8倍は少し拡大率が落ちる反面、上の高倍率のデメリットとちょうど逆のメリットがあります。あまり視力に自信がない方、ルーペに不慣れな方は7倍や8倍でもいいでしょう。

一方、肉眼でなかなか見えないものまで見たいなら、5倍などではやや倍率不足です。

②レンズ径があまり小さいものは野外で不利

レンズが小さめのルーペは視野が狭く、暗く感じられるため野外での観察にはあまりオススメできません。レンズの「有効径」が15mm以上くらいが良いでしょう。

ちなみにルーペには「宝石鑑定(あるいは鑑賞)」というかなりメジャーな用途が存在します。宝石鑑定用のルーペには高品質なものが多く、中でもプロの鑑定士に人気なのが、あのNikonが出している10倍のルーペ(品名:宝石鑑定用ルーペ 10×)だそうです。

Nikonのカメラのファンやユーザーなら反射的にポチってしまいそうな製品ですが、ちょっと待った!このルーペ、有効径が13mmしかありません。

持ってる方に覗かせてもらいましたが、大変クリアに見えるものの、野外でラフに観察するにはちょっと視野が狭いなと感じました。

メーカー 型番  倍率 レンズ径

市場価格の目安

Vixen   M20S  10倍 20mm 2,000円前後
Vixen  M16N  10倍  16mm 3,000-4,000円
Vixen   M17N  10倍  17mm 4,000-5,500円
Nikon  宝石鑑定用ルーペ  10倍   13mm 5,000-7,000円
Eschenbach  1176-10  10倍  23mm 6,500円前後
Eschenbach 1182-10   10倍  23mm 6,500円前後 
カートン光学  R7529  10倍  22mm  〜9,000円
カートン光学

 R2450

(カリナンPRO)

 10倍  18mm  10,000円前後
Zeiss   D40  10倍  13mm

12,000円前後

↑各メーカー定番商品の倍率10倍のルーペのレンズ径比較。もちろん、レンズ径が良ければそれで良いというものではありません。

③レンズは、できれば2枚構成以上の高品質なもので

3倍くらいまでだとあまり感じませんが、倍率が10倍ともなると、品質の悪いレンズだと像のゆがみがひどく、見ていて疲れます。また、ピントが合った部分の像がいまいちハッキリしないものもあります。これらはレンズの「収差」によるものです。

収差:いろいろな要因で、一点から出た光線の束が完全には一点に集まらないこと。

高品質なルーペにはレンズを2枚(ダブレット)、3枚(トリプレット)と組み合わせたり貼り合わせたりすることで、1枚のレンズの欠点を補う(収差補正をする)設計になっているものが多くあります。

ただし、ダブレットやトリプレットだから良いというものではなく、レンズ1枚構成のもので比較的見えのよいものや、その逆もあります。

一般的に1枚構成のレンズは、ルーペを眼に近づけてのぞき込む、いわゆる理科の教科書通りのルーペの見方ではあまり気になりませんが、レンズを対象物の近くに置いて少し眼を離して見る場合(例えば自分が持ったルーペを他の人がのぞくような場合)、像の歪みがかなり出ます。

ちなみにキュリオス沖縄では、ガイドが持つルーペは「トリプレット構成」のものを使用しています。これはべつにお客様に貸し出した道具より良い道具を使ってドヤ顔をしたい訳ではなく、ルーペの扱いに不慣れなお客様にガイドのルーペをのぞいていただく、すなわち上記のような使い方をする機会が多いためです。

(紛らわしいですが、複数のバラバラに動くレンズが収納されていて、重ねて使うと高倍率になるタイプは普通「ダブレット」や「トリプレット」とは言いません。一見1枚の分厚いレンズのように見えるのがそうです)

④オススメの機種、メーカー

価格は1000円台から一万円超え、さらには三万円台までピンきりですが、安くて比較的良いものもあります。

検索するとさまざまなメーカーが出てきますが、実際にルーペを製造している所は多くはないようで、ラベルだけ違って中味は全く同じ、なんてことも多々あります。下記に紹介しているのはいずれも製造を手がけているメーカーさんか、少なくともメーカーオリジナルの製品です。

Vixen

Vixenというメーカーが出している「メタルホルダーM20S(倍率10倍)」というルーペは、実売1700円弱と大変お手頃でオススメです。

メタルホルダーM20S。ストラップは付属しません

この機種のいいところは、10倍の倍率の割にレンズ径が20mmとかなり大きく、のぞきやすいところ。安いわりに像がきれいという定評もあります。実際使ってみてもかなり見やすいです。

野外で落っことしたり汚したりぶつけたりということを考えると、このくらいの価格帯がちょうどいいのかもしれません。ちなみに「キュリオス沖縄」のツアーでお客様に貸し出しているのもこの機種。

こと、野外観察での実用性に関してはピカイチで、よくこんな価格でこんなモノが作れるなぁと思ってしまいます。

レンズはガラス、そのほかは総金属製です。繰り出し部分の動きが個体によって固かったり、逆にゆるかったりもしますが、造りはこの価格にしては決して悪くないと思います。

横から見たところ

Vixenのメタルホルダーシリーズには、この上に「M16N(レンズ2枚構成)」「M17N(レンズ3枚構成)」がありますが、価格がだいぶ高くなる上にレンズの有効径は16mm, 17mmと「M20S」と比べるとやや小さめになります。

この値段になってくると、下記のルーペで有名なブランドの商品とそう差がなくなってしまいます。やはりM20Sのコストパフォーマンスの良さはぶっちぎりだと思います。

コレに付属しているのもM20Sっぽいですね。Vixen 「コケ観察セット」

追記:その後、M16Nも買ってみました。実勢価格で2600円ほど。

あ、コレいい…!

視野の端まで像がきれいなので、レンズ径の小ささはあまり気になりません。周辺部はもちろんですが、中心部のシャープさでもM20Sよりも上。コントラストも色乗りもいいです。

というわけでM20Sよりちょっと良いものが欲しい方にも大変オススメです。

その他、5000円前後のルーペ

もっと高い物じゃなきゃ格好がつかん!という人は、だいたい¥5000くらいの価格帯の中から選んでみるといいでしょう。

このくらいの価格帯だと、ダブレットやトリプレットの優秀な機種がエッシェンバッハ、カートン光学などの有名どころからいろいろと出ています。

ただ、この価格のものを野外でガンガン使うかどうか、は意見が分かれそうなところです。

個人的な一番のオススメは「Peakの×7」

ちなみに、僕はPeak(東海産業)というメーカーの7倍のルーペ(1985-7)を使っています。

Peak 1985-7

ドイツの光学機器メーカーがかなり古い時代に開発した「シュタインハイル構成」という、3枚貼りあわせ(トリプレット)タイプのレンズ構成を採用していて、非常に像がシャープです。

倍率は7倍ですが、解像感とコントラストがすばらしく細部が見やすいため、実際の観察においては先ほどのメタルホルダーM20S(10倍)と比べてもより細部が見えます。のぞき比べると「あれ、どっちが10倍だっけ?」と思うほど。

色が非常に濃くきれいに出るのも特徴で、構造などを確かめるだけでなく、鑑賞用途にも向いています。

レンズ径は16mmと、先ほどの「メタルホルダーM20S」に比べれば小さめになりますが、視界の隅々までシャープに見えるので特に視野が狭い感じはしません。

相場はだいたい4,500-5,500円くらいでしょうか。この価格帯の中では圧倒的にオススメです。

レンズはガラス、レンズのケーシングは金属、本体はプラスチック製で、繰り出し式ではなく、まっすぐシュッと引き出すような造りになっています。

側面をつまんで引き出します

これは首に下げた状態からワンタッチで引き出せて大変便利なのですが、欠点として、引き出す部分が使っているうちに緩くなり、スポッと抜けてしまうことがあります。

横から

他にも、10倍、14倍、20倍がラインナップされています。(いつの時代のHPだよ!って感じのレイアウトですが、嫌いじゃないですこういうの)

その他、10,000円からそれ以上

お金に糸目をつけないから高品質なものが欲しい、という方へのオススメはカートン光学の「カリナンpro」というモデル。

実売10,000円くらいしますが、倍率×10の高品質なトリプレットにもかかわらず、レンズ径が18mmもあります(大きな高品質レンズ、というのは高価なのです)。実は僕はこの製品を覗いたことはないのですが、どのレビューを見ても良好な評価で、スペック的にも大変使いやすいのではないかと思います。

究極に格好をつけたい向きには、ドイツの老舗名門光学メーカーであるZeissが出しているルーペなどもあります。

10倍のモデル(D40)で実売¥13,000ほどもしますが、持っているだけでレンズマニアから熱い視線を集めること間違いなしです(笑)。僕もちょっと欲しいです。

品質は確実で定評もあります。ただ、宝石屋さんでのぞかせてもらったことがありますが、レンズ径は13mmと小さめなこともあり、野外用として考えると少し覗きにくかったです。なにより高い。。

⑤肉眼と明らかに違う世界をのぞくなら、15-20倍も

さて、野外観察に使うなら10倍くらいまでがいいよ!と書きましたが、7-10倍のルーペをさらに持っていて扱いに慣れており、さらに細部を観察したい!という人には15-20倍のルーペもオススメ。

たとえば、ルリハコベの花の、花粉の粒ひとつひとつまでハッキリ見たいと思ったら15-20倍が必要です。

Peak 1985-14

7倍が大変良かったのでpeakの14倍を買ってみましたが、こちらも大変良いですね。

レンズ径もだいぶ小さく(12mm)、ピント合わせもシビアになりますが、色乗りの良さとシャープさは7倍と同様。

⑥できれば実物をのぞいて選びたい

スペックや評価などはWebで検索すればたくさん出てきますが、見やすい・見にくいといった使用感は、個人の感覚にもかなり左右されます。できれば実物をのぞき比べて選びたいもの。

ただし、いろいろなルーペの在庫を常に抱えているのは、よほど大きなカメラ用品店、専門的な昆虫用品店などに限られます。沖縄に住んでいるとルーペを店頭で見られるところはほぼなく、Webの情報を頼りに探すしかありませんでした。

⑦安く買いたいなら、いろいろな所で見よう

価格を調べていて思ったのは、店舗によって価格に本当に開きがあるなーということ。

正直、どんな商品でも「1円でも安く買おう」という考えには、いち消費者としてあんまり賛同できません。

ルーペを店頭で比較させてくれて、いろんな情報を教えてくれる親切な店があったら、多少高くてもその店で買いたいと、僕は思います。ルーペを在庫するコストや、店員さんの人件費だってそこに乗ってるわけですし。

ただ、ルーペという万人が使うものではない商品の性質上、たとえばカメラなどに比べてもかなり価格は不安定です。下手すると倍以上違います。

極端な例だと、先に挙げたNikonの宝石鑑定用ルーペはメーカーHPに掲載されている希望小売価格が8,800円(税抜き)で、定番商品でもあり特に品薄でもないのですが、ネット通販で14,200円で販売しているところもありました。別に違反でも何でもありませんが、さすがに消費者の無知を突いていると言われても仕方ない価格設定です。

逆に、平均的な相場の7割くらいの価格でカメラ用品、ゴルフ用品、ブランド商品などを取り揃えるネットショップは十中八九明らかな詐欺サイトですので、相場をチェックする癖はやはり大事です。

ルーペの使い方、ルーペを使う上での注意点

ここからは、基本的なルーペの扱い方について。

太陽を見ない

絶対に、絶対にルーペで太陽を見てはいけません。

ルーペで枯れ葉や紙を焼いたことのある方なら分かると思いますが、あれと同じことが人間の目の網膜にも起こります。考えただけでも恐ろしいですね。たった1度でも、十分に失明の危険があります。

特に、お子さんに貸したり買い与えたりする場合はよくよく注意しましょう。ルーペを目に当てたまま上を向いて観察対象を探すような動きも厳禁です。

また、野外でルーペを使う場合、観察する対象に気を取られすぎて足元や頭上への注意がおそそかになりやすいので気を付けましょう。「歩きスマフォ」ならぬ、「歩きルーペ」でつまずいて転んだ友人もいます。

ルーペの覗き方

教科書には「まず眼とルーペを近づけて、対象物を見やすい(ピントの合う)位置に持ってくる」とあります。

ルーペに目を近づけて…
のぞく!

これはこれで正解なのですが、ルーペで観察したい対象物がいつも自由に持ち上げられるとは限りません。

例えば、持ち上げられない大きさの岩の表面を観察する場合、対象物を動かすことはできないし、かと言って眼とルーペをまず近づけてからピントを合わせにかかると、観察しようとする箇所を見失うか、悪くすれば頭を岩に激突しかねません。高い位置のものを見ようとしてこれをやると、間違って太陽を覗いたりすることにも繋がり、大変危険です。

このような場合には、観察するものとルーペをまず近づけ、それから覗き込んでルーペの位置を微調整します。観察する対象物によって使い分けましょう。

また動きまわる昆虫などは、小さめな透明のケースなどに入れてしまうとルーペで観察しやすくなります。

ルーペのクリーニング方法

野外で使っていると、ルーペのレンズにも当然さまざまな汚れが付着してきます。

ルーペはカメラのレンズと違って水洗い可能なので、下手に拭き取るよりは洗ってしまいましょう。食器用洗剤をごく少量つけて指でこすれば、油性の汚れも落ちてくれます(このくらいでレンズのコーティングが傷むことはありません)。

あとは、キッチンペーパーなどで水分を拭き取ればOKです。拭き残りが気になるなら、仕上げにレンズクリーニング液を染み込ませた布で拭けば完璧です。

100均のメガネクリーナーで十分

研磨剤つきのスポンジでこすったり、砂がついたままの状態でレンズクリーナーで拭き取ろうとすると、レンズに傷が入るので要注意。

ただ、野外で使うルーペにカメラのレンズほど神経を使う必要はないと思います。

フィールドに、ルーペを持っていくということ

おわりに。ルーペはとても重要な観察ツールの一つです。

冒頭にも書きましたが、もし子供の頃から学校などで顕微鏡が身近にあったがためにルーペを軽視してしまうなら、こんなもったい事はありません。

試料を持って帰って顕微鏡で検鏡するのはもちろん大事ですが、野外でその場でサクッと拡大して観察できるというのはとても大切なことです。

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10倍や20倍くらいの倍率だと正直、顕微鏡などと違って「どう頑張っても肉眼で認識できないものが見える」という倍率ではありません。

その代わり「肉眼で観察したもの」と「ルーペで覗いた像」との関連を頭の中で結びつけやすく、ルーペで観察する癖をつけると肉眼で見ても「何となく」分かるようになったりします。

身の回りのものを、身近なフィールドの生物や鉱物を片っ端からルーペで覗いてみることは、肉眼での観察力を鍛えることにもなるのです。

(by 宮崎)

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カエルだって気が向けば海を渡る…こともあるーリュウキュウカジカガエルー

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今日ご紹介するのは「リュウキュウカジカガエル」というカエル。

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リュウキュウカジカガエル Buergeria japonica

色は灰色〜褐色で、脚に暗色の縞模様があるのが特徴。

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石に紛れる

沖縄では大変ありふれたカエルで、山間部から平地の池や沼、それになんと海岸にまで分布しています。

これは本土の「カエル通」な人からするとちょっとビックリ情報かもしれません。なにせ本土のカジカガエル Buergeria buergeriは山の中の清流にしか見られないカエルとして有名だからです。リュウキュウカジカガエルの方はカジカガエルと違って暑さにも塩分にも強く、水気さえあればいろんな環境に節操なく出てきます。

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瞳が楕円形でカワイイ

さてこのカエル、実はかつて海を渡って分布を広げたのだろうと考えられています。

琉球列島の中のトカラ列島の「悪石島」と「宝島」の間には、生物の分布を分ける線「渡瀬線」が存在します(…というより生物学者が引いた線なのですが)。琉球列島は海面の上昇・下降にともなって島同士が陸続きになったり離れたり…を繰り返しているのですが、この場所には通称「トカラギャップ」と言われる水深1000m級の海溝があり、海面が下がった時期もずっと生物の移動を妨げていたと考えられます。

なので、特に飛んだり海を渡ったりできない生き物は、この線をまたいで分布が途切れていたり、この線を堺に南北で別々の種類に分かれていたりしていることが多いのです。

Tominaga2015改
Tomonaga, 2015 改

カエルなんて普通は、海を越えられない生物の代表格と考えられています。

ところがこのリュウキュウカジカガエルは、この渡瀬線をはさんで南北に遺伝的にとても近い個体群が生息しています(Tominaga et al, 2015)。詳細な遺伝的解析で、この個体群は人が持ち込んだものでもないことが分かっています。これがどういうことかというと、いつかのどこかで、リュウキュウカジカガエルのオスとメスが流木などに乗って島の間の海を渡り、分布を広げたのだろうということ。

肌の強いトカゲならともかく、両生類であるカエルはそんな事をできないのでは…というのが通説でした。ところがリュウキュウカジカガエルは海岸でも生きられるツワモノ。この性質があったからこそリュウキュウカジカガエルは海を渡れたし、またそもそも嵐の時に海に流される機会が多かったのではないか、と考えられています。

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沖縄本島南部の森で出会った個体

と言っても、台風の度にカエルが海を渡るワケではありません。千年に一度でもいいから、たまたま海に流木と一緒に流されたカエルのオスとメスがたまたま生き残って海を越え、子孫を残せばこの話は成立するのです。

とはいえ、この話を聞いてしまうと、真っ青な海にポツンと浮かぶ流木に必死にしがみついて旅をするリュウキュウカジカガエルを想像せずにはいられません。

(by 宮崎)

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植物で遊ぼびまくろう!理科の先生のための「理科であそ部」第5回

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キュリオス沖縄が協力している理科の先生向けのイベント「理科であそ部」第5回の様子をご紹介します。

「理科であそ部」とは(Facebookページはこちら

「理科であそ部」は、身近なところにひそむ科学を遊びながら学ぼうというコンセプトのもと、教員や科学教育に携わる人たちが集まって活動しています。自分の中の「科学の扉」が開けると、今まで見ていた世界と全く違った世界が見えてくるはず!教材や授業ネタを提供しあって、明日からの授業がレベルアップを目指します!

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と言っても今回の「先生オブ先生」はキュリオス沖縄のメンバーではなく、若き現役高校教員の中村元紀先生!中村先生のレクチャーのもと、今回は沖縄の身近な植物でとことん遊ばせてもらいました!(以下クォーテーションの中は、中村先生のしゃべった内容をうろ覚え&ダイジェストで再生)

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そして今回も、若手を中心に多くの県内の教員の方々が集まり。休日にもかかわらず…!

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一番手前の葉っぱは、沖縄県内の方には馴染み深いのではないでしょうか。

机には開始時点でいろいろな植物の葉や枝が山盛りにされています。さながらサラダバイキングの様相ですが、何に使うのかな…?

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植物というと「動かない」「普段、風景としか見ていない」ゆえに、特に子供たちや若い方にとって、興味の対象になりにくいという側面があります。しかし、そこは「見せ方」次第です。

ほう!
というわけで、まずは見て触ってにおいを嗅いで、五感で感じてみました。

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初めは無理に名前を覚える必要なんて全くなくて、「そうそう、これはこんな奴だった!」という印象に残る形で植物との「関係」を築きます。「くさいやつ」「ザラザラしてるやる」「白い汁が出るやつ」そんなんでいいんです。

おー、ざっくりしてるな(笑)でも言われてみればなるほど。ドクダミの匂いとか久々に嗅ぐと、ものっそい勢いで少年時代とか思い出しますもん。

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そうやって自分が「馴染みになった」植物に街中や公園で出会うと、とたんに親近感が湧いてきます。「お前、ここにもいるじゃんよ…!」みたいな。

子供たちにそれを感じてもらうためには、まずは先生が植物で遊び倒さなくてはなりません。分厚い理論書とかはひとまず脇に置いて、自分が体験者となりましょう。

というわけで、僕らも参加者となり植物を嗅ぎまくりーの、触りまくりーのしました。

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ちなみにこちらはゲッキツ Murraya paniculataというミカンの仲間の葉。鳥が種を運ぶので、県内だと庭先に森の中に、どこにでも生えているそうです。

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ちぎって匂いをかいでみると、ほのかに柑橘系の香りがしました。最近はブレンドしてお茶としても利用されていますね。ちなみにゲッキツ、これ全体で「1枚の葉」だそうです。

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モクマオウ Casuarina strictaの葉

こちらはあちこちの海岸で見かけるモクマオウの葉。一見マツの葉にも似ていますが、マツが裸子植物なのに対して、モクマオウは実はれっきとした被子植物の仲間だそうです。

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この茶色い小さな突起一つ一つが「葉」とのこと。「1枚の葉」と言っても、植物によってその形は想像以上に多様ですね!

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サラダバーではありません

さて、お次はイチジクの仲間(イチジク属 Ficus)の植物の仲間の葉っぱ7種を見分けてみます。

机の上には、山盛りになっているのがゴチャ混ぜになった7種の葉っぱ。こ、これを全部分けるだと…?

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ここに「ガジュマル」「イヌビワ」「ホソバムクイヌビワ」「オオバイヌビワ」「ハマイヌビワ」「アコウ」「オオイタビ」の7種の葉っぱが混じっているとのこと。イチジクの仲間と言われるとピンと来ないかもしれませんが、沖縄で最もよく見かける「ガジュマル」も実はイチジクの仲間です。

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ぱっと見、カードバトルをやってるようにも見えます

漠然と見ていると分かりにくいですが、葉脈や葉っぱの縁の形状、葉のサイズや触ったときの質感などに注目して、

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ああでもない、こうでもないと分けていくこと10分ほど。

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なんと、全班がほぼ正しく分類することができました。

人間の認識能力ってすごい!…というか、もともと人間の認識に則って生物を種類分けしていくのが「分類」で、「分類したがる」というのは人間の性(さが)のようなものなのでしょうね。

ここでちょっと屋外に出ることに。

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会場となった琉球大学の教育学部の周りだけでも、実に多くの種類の植物が見つかります。

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持ち帰ったイチジクの仲間(イヌビワ)の花(実)を割って、顕微鏡で見てみましょう。

何が出るんでしょう。中身、美味しそうだといいな。wktk(わくてか)しながら実を割ってみました。

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うぎゃーーー!!

出てきたのはこんなハチの仲間のイヌビワコバチ Blastophaga nipponica  ハチと言っても人を刺すことはない昆虫だそうです。

このハチはたまたま入っていたわけではなく、イヌビワの花粉を運ぶ手助けをしています。またこのハチも、イヌビワの花がないと繁殖できません。

イチジクの仲間には、それぞれの種類に「専属」のイチジクコバチの仲間がいて、もっぱら花粉の運搬をその1種類のハチに頼っています。

なにその独占契約。一体どうやって成り立ったの…?

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こういうのは本で読んで知るよりも、実際に実を割って中からわらわらとハチが出てくるところを観察した方が絶対に印象に残りますね。

こんな感じで、今回の「理科であそ部」も超楽しませてもらいました!!中村先生、琉球大学教育学部の皆さん、ありがとうございます!!

 

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造花よりなお”作り物っぽい”植物「サクララン」咲いてました!【沖縄の野生植物】

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造花って、好みが分かれますよね。

多少手間がかかっても生きている植物を置く方が好きな方もいるでしょうし、一方で世の中、生花が置けない現場で造花が大いに活躍しているのもまた事実。

さて、今日紹介するのはそんな問題も吹き飛ぶくらい「造花っぽい」生きた植物。そんな植物が、沖縄にはもともと自生しているんですね。名を「サクララン」といいます。

サクラランとは

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サクララン Hoya carnosa こんな感じのつる性の植物です

桜なのか蘭なのか分からないような名前ですが、どっちの仲間でもなく「ガガイモ科」という科に属します。園芸業界では学名の属名の部分を取って「ホヤ」と呼ばれたりもするようです。

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沖縄の石灰岩地の森にごく普通で、岩にしっかり根を張って育ちます。石灰岩地に生息する植物には、土なんかなくても発芽して、そのまま石灰岩に貼り付きながら成長可能な植物が多く見られるそうです。

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こんな感じの根で石灰岩をがっちりホールド

葉は限りなくソフビっぽい質感

特徴的なのは何と言ってもやたら厚ぼったい葉。ツヤ感や重さなども相まって、懐かしの「ソフビ人形」にそっくりの感触です。オフィスにあったら多分、10人中10人が「やけに作り物っぽい造花だな〜」と思って通り過ぎるはず。

さて、石灰岩地に普通に見られると書きましたが、この植物、なかなか花を咲かせてくれないそうです。

崖などから大きく垂れ下がるような場所でないと花をつけないらしく、株自体はいくらでもあるのに花はなかなか目にすることができない…ということがよくあります。つい先日も、サクラランの株がいっぱいある沖縄本島南部のフィールドに花の写真を撮りに出かけ、現場でカメラを持ったおっちゃんに「1か所だけ咲いてたけどもう終わったよ〜」と言われ玉砕したばかり。

プラスチック製?と見まごうような花

それが、本日沖縄本島北部の石灰岩の山に入っていた時のこと。

この辺サクラランが多いし、こんだけ垂れ下がってたらどこか花つけてないかな〜?

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ん、あれはもしや…

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わ、やっぱりサクラランfl(花)だ!実は、間近でちゃんと見るのは初めてだったりします。

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半球状に花が集まった花序(かじょ)

噂通りカワイイなぁ…と思って近づいていくと…

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120mmのレンズによるクローズアップ

あ、あれぇ?何か思ってたのと違う…何この「作り物感」…

喩えるなら、人間だと思って近寄って行ったらマネキンだった、的な気持ち悪さと違和感。もちろん、普通の生きた花です。もともとこういう花なんですね。写真ではちょっと伝わりにくいですが、まるで幼児向けの玩具(それも安物)みたいな質感とディテールです。

というわけで、今日はちょっと珍しいものを見ることができました。憧れが砕け散るのと引き換えに、ですが。。

ちなみに、ここのフィールド自体はこのツアーでご案内しているフィールドなのですが、サクラランが咲いていたポイントは本道から脇道にかなり入った先、さらに藪の中なので、危なくてお客様をご案内することはできません。ご了承下さい。

追記:この後、ツアーのルート上でも咲いてくれました!

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(by 宮崎)

 

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ナナフシの七不思議その①:「ナナフシモドキ」という名前の謎

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勢いで七不思議とか書いてますが、7つ思いついた訳ではありません。でも結構ナナフシネタは引っ張れそうな予感がします。とりあえずその①。

動物・植物を問わず、生物の名前(和名)には「◯◯モドキ」というネーミングがよく見られます。たとえば、

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クロイワトカゲモドキ

とか…

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トウヅルモドキ

とか。「モドキ」は「〜に似て非なる」という意味で付けられることが多いです。分類群的に近い場合もあれば、遠い仲間である場合もあります。

さて、「ナナフシ」という昆虫の名前を聞いたことがあるでしょうか?

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こんなの。ちなみに左が頭です(オキナワナナフシ Entoria okinawaensis

こういう感じで樹の枝や葉柄のフリをしてじっとしています。色は緑や茶色など。

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オオバギの葉脈のふり(?)をするオキナワナナフシ
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捕まってもまだ枝のふりをするナナフシ

ナナフシには様々な種類がいるのですが、

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コブナナフシ

実は、ナナフシの仲間(ナナフシ目)の名前の背負う本家本元の“ナナフシ”の和名がなんと「ナナフシモドキ」となっています(沖縄にはいません)。本物なの?偽物なの?と突っ込みたくなりますね。さらにおかしなことに、この「ナナフシモドキ」、別名で「ナナフシ」と呼ばれることもあります。

ナナフシ=ナナフシモドキ

なぜこんな事になっているか、種明かしをするとこうです。

「ななふし」とはもともと「七節」、つまり節くれだった樹の枝を指し、その樹の枝に大変よく似ている(うまく擬態している)昆虫に「七節もどき」という和名が与えられたというわけです。それが短くなって「ナナフシ」と呼ばれていると、こういう訳です。

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こんな体形ゆえナナフシの仲間は動きが速くなく、身を守る武器らしい武器も持っていません。ひたすら自分の擬態に全幅の信頼を置いてじっとしています。「昆虫版ナマケモノ」といったところでしょうか。

そんなナナフシを見つけるコツは、ひたすら「そういうモノ」がいるという前提で草木を見ること。いるところにはたくさんいて、1個体見つかると不思議と次々に見つかります。

(by 宮崎)DSCF0284

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自宅の裏の神社に夜行ってみたら、オカヤドカリのデカいのがわんさか…!

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大きいオカヤドカリは希少?

特に観光客の方の中には、「沖縄の生き物」と言えばこの「オカヤドカリ」を思い浮かべる方も多いと思います。

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多分、いや間違いなく、連続テレビ小説「ちゅらさん」のOPの影響でしょうね。Kiroroの「Best Friend」のピアノイントロとセットで記憶に残っている人も少なくないはず。

浜辺でよく見かけられるのは500円玉大のものが多いですが(ちゅらさんのOPもそのくらい)、このオカヤドカリ、実は結構大きくなります。

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このくらいあれば「大きい」と言って差し支えないかと

ただ、地元の方同士の話でも、大きい個体は「今はもうなかなか見ない」「北部か、離島に行かないといない」というのをよく聞きます。

ところが、那覇市内の僕の自宅のすぐ裏の神社に夜行ってみたところ、ちょっと参道をはずれた場所にこんなサイズのオカヤドカリがわらわら…

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スケールを置いていませんが、Lサイズの鶏卵より大きめ

めんどくさくなって1個体しか撮りませんでしたが、そこらじゅうにゴロゴロいました。

そう、オカヤドカリは大きくなると、かなり海から離れて棲む傾向があります。海岸から続く森なんかが残っている場所だと、浜辺には硬貨サイズしかいないのに、海抜50mも60mも登った森の中に大きいのがわらわら…ということがよくあります。

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南部の石灰岩林の個体

そう、森が海に繋がってさえいれば…ってあれっ?

※いつもは乱獲などのリスクを考えて希少な生物の生息地を載せない方針なのですが、オカヤドカリは数がいる割に天然記念物指定がかかっていて乱獲の対象になりにくいので載せています。

ポイントした場所がその神社なのですが、オカヤドカリが海まで行くルート…今はもう無いんじゃない?ということは、こいつら一体どこから来たの…?

オカヤドカリの生活史

ここで簡単にオカヤドカリの生涯について説明しておきましょう。

オカヤドカリは陸での生活にたいへんよく適応したヤドカリですが、もともと海に暮らしていたヤドカリの仲間から進化したと考えられています。そのため、普段の生活は森の中で大丈夫なのですが、子孫を残すには海に降りる必要があるのです。

夏の大潮の夜、満潮の時刻にオカヤドカリのメスは、受精し発生が進んだ(生まれる直前の)卵を抱えて海に降ります。

そして、波しぶきのかかる岩にしがみつき、波がかかるタイミングで卵を海に放ちます。卵は海に放たれたと同時に孵化し、「ゾエア幼生」と呼ばれる形態になります。その後、海中を漂う生活のうちに何度か変態を繰り返し、「グラウコトエ幼生」という形態に変化してはじめて貝殻を背負い、上陸します。

つまり、すべてのオカヤドカリは海で生まれて陸に登ってきた個体なのです。

住吉神社のオカヤドカリはどこから?

もう一度地図を見てみましょう。

一見海に近いですが、最寄りの海はほとんど岸壁しかない那覇港。そしてそこからの陸路には片側2-3車線の幹線道路が立ちふさがっています。ここで上陸して移動してくるとは、ちょいと考えられません。

西の方角にはマングローブ林があってそこにもオカヤドカリはいますが、かなり離れている上に間は数キロの間ずーっと人口密度の高い住宅街です。

もしかしてですが(と言うより、そうでないことを祈りますが)このオカヤドカリの個体群は、住吉神社から海までの道がつながっていた時の生き残りでは…?オカヤドカリはかなりの長命で、20-30年は当たり前に生きると言われています。ことによると50年くらい生きるかもしれません。やけに大きな個体ばかりだったのが気になります。

まぁオカヤドカリの移動能力はけっこう凄いので、もしかしてこう見えて海から移動してこれるルートがあるのかもしれません。あるいは、子供が大量に捕まえてきて、裏山に離した…なんてオチかもしれません。

いずれにせよ、ここのオカヤドカリ個体群にはちょっと興味を引かれます。周辺の地理を含めて、もう少し追ってみようと思います。

(by 宮崎)DSCF0284

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夜間の野外や洞窟でのアクティビティ・生物観察に最適なLED懐中電灯選びについて―光量やランタイム、携帯性から考える

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森にしろ海岸にしろ、野外のフィールドは夜になると昼間とはまた違った顔を見せてくれます。

また、洞窟の中などはまさに非日常の世界そのもの。灯りの照らし出す先に何があるのか…?そのシチュエーションだけでもテンションが上がります。

ただ、明かりのある生活に慣れ切った現代人にとっては、単に「暗い」というただそれだけのことが様々なリスクや困難につながります。

そんなシチュエーションでの「頼れる相棒」が懐中電灯。

昨今、LEDの普及で一気に小型でコンパクトな製品が主流になりました。

今回は、沖縄の夜の森や海岸をガイドしてきた経験から、夜のフィールドでの野外アクティビティに使うLED懐中電灯(以下LEDライト)の選び方について書いていきたいと思います。

選び方について

LEDライトは人気ジャンルで、量販店にもネットショップにもつねに膨大な数の商品があふれています。

が、品質もスペックも本当にピンキリなので、野外で使用する「本当に頼れるライト」をお探しの方は、しっかり情報を得てから選びましょう。

その1.1000ルーメンもいらない!?―明るさで選ぶ

結論から言うと、野外アクティビティのたいていの用途において、あまり明るいものは不要です。

照射角のせまいものなら100-150ルーメン、かなり照射角の広いライトでも、300ルーメンもあれば十分です(なぜこのような違いが出るのかは後述)。

明るすぎるLEDライトのデメリット

「○○ルーメン」などの明るさスペック上の数字はデカければデカいほど心くすぐられる…という、私をふくむ世の多くの男性の性質(中二病ともいう)を見越してか、どのメーカーも明るさを売りにした商品を主力にする傾向があります。

が、野外アクティビティにおいて、明るすぎるLEDライトには様々なデメリットがあります。

  • ランタイムが短い(電池が持たない)
  • 明るいLEDは不安定(特に安物)
  • 無駄に高価
  • 生き物観察なら、生き物に不要なプレッシャーを与える可能性がある
  • 急に消灯したとき、目が見える(夜目が効く)ようになるまでの時間が長い

などです。

では何ルーメン必要?

ただ、あまり暗い照明だと人間、見たものの色や形状を判別するのにけっこう時間がかかってしまいます。

足元の安全を確保するためにはもちろん、森の地面、下草の上、樹の幹などを次々と通り過ぎながら生き物を探していくような場合、ある程度の明るさなは必要になります。

ということで先に書いたように、スポット的な狭い範囲を照らすものなら100-150、ワイドな光を発する懐中電灯でも、300ルーメンもあれば十分です。

同じ数値でも明るさは違う?「ルーメン」表記について

ちなみにLEDライトの明るさは「全光束」で表されることが多く、この光束の単位が「ルーメン(lm)」です。

ルーメンの正確な定義はかなり難しいので割愛しますが…

光を「一定の太さの針」に例え(下図)、一定面積を照らす(正確には一定の照射角に向けて放射される)「光の強さ」を「針の長さ」、照らす範囲を「針の本数」にたとえるとすると、「すべての針の合計の重さ」がLEDライトの「○○ルーメン」の表記になります。

同じ1000ルーメンでも、照射角が小さいと体感的には明るい

たとえば「1000ルーメン」の表記があっても、せまい範囲を照らすものほど明るく、広い範囲を照らすものほど体感的には暗く見えます。

明るさの切り替え機能があればベスト

作業する手元を照らしたり、見つけた生き物をじっくり観察したりする場合、探すときと同じ光量で照らしてしまうと光量オーバーで使いにくいことがあります。

LEDライトの中には明るさが切り替えられ、100ルーメン以下くらいまで減光できるモードを備えたものがあり、こういう時大変便利です。

ただ注意すべきは、あまりにもいろいろな点灯モードがあって、とっさに消したりする必要に迫られた時に何度もスイッチをカチカチと押し続けなければならない仕様になっているものは非常に使いづらいということ。

点灯時間(ランタイム)で選ぶ

どのくらいの点灯時間(ランタイム)のものが良いか?これは完全に用途により異なってきます。

ただ、覚えておいていただきたいのは「ほとんどの市販品のLEDライトは公称の点灯時間より持たない」ということ。

そもそも、「5時間持つ」などの基準も、「50%の光量になるまで」「1ルーメン以下になるまで」などメーカーによって(ときには同じメーカーの製品ごとに!)まったく異なります。

ただ基本的には下の図のように、小型かつすごく明るい(1000ルーメンなど)製品はすぐに電池が切れますし、逆に大柄で電池をある程度積むのに光量が控えめなものは、長いランタイムが期待できます(ただし後述のリチウムイオン式は、小型で大容量が期待できる)。

なので、点灯時間を基準に選ぶときは、使用電池をよく考慮し(表にして書き出してもいいくらいです)、眉にツバしつつメーカーのサイトなりカタログなりの公称点灯時間を比べることをオススメします(笑)

ちなみに多くのLEDライトは、電池がフルの状態から徐々に電圧が下がるにつれて光量が徐々に落ちてきますが、中には特殊な回路が仕込んであって電池がなくなるギリギリまである程度の明るさを保ったり、熱を持つのを防ぐために点灯して数分で光量を落とすような仕様になっていたりするものもあります。

乾電池式か?充電式か?充電式なら単何電池か…?で選ぶ

充電式ライトのここが良い!

乾電池式の機種であっても、非常用ではなく普段使いするなら、昨今ほとんどの人が「eneloop」などの充電電池を入れて使うのでないかと思います。

ただ、その場合はいちいちライトから電池を抜き出して充電器にセットし、充電完了後また電池を入れ直すという手間をかけなければなりません。

これに対して、本体に充電機能があるものはmicro-USBなどのプラグを挿しておくだけ、もしくはホルダーに掛けておくだけで充電が完了してしまいます。これは地味に便利。

また本体充電式のライトの多くは、汎用2次電池(いろいろな機器に使い回せる充電電池)としては使うのが難しい「リチウムイオン電池」を使っています。

リチウムイオン電池は、eneloopをはじめとした「ニッケル水素電池」と比べて体積・重量あたりの電圧・電池容量がだいぶ大きいため(電圧で3倍、重量エネルギー密度で2倍)、ライトに使うと同じ明るさ・ランタイムでより軽く小さく作れるという大きなメリットがあります。

乾電池式ライトのここが良い!

いっぽう、乾電池式のメリットは「万一充電し忘れても電池が調達しやすい」ということに尽きます。

万一出先で充電を忘れたことに気づいた時、充電式ならアウトですが、スーパーやコンビニでアルカリ電池を買えばなんとかなるし、なんならeneloopを買い足せばその場でも使え、予備にもなります。

(そんなことを繰り返し、膨大なeneloopをため込む知り合いがいます)

充電式の中には車のUSBソケットから充電できる製品もありますが、車のからの給電では電圧が低く不安定なため、充電にはえらく時間がかかったりします。

配光特性で選ぶ

配光(はいこう)は、簡単に言うと「光の広がり方」です。

おおまかには広い角度で広がるものと、せまい角度に集中するものがあり、どちらが便利かは用途によって異なります。

さらに、メーカーや製品によって「真ん中を強く照らす」「全体を均一な強さで照らす」などの違いもあります。

光が遠くまで届きやすいのは「せまい範囲を照らす」「真ん中を特に強く照らす」タイプなのです。が、実際に真っ暗な野外で使ってみると「広い範囲を均一に照らす」タイプも足元を広く照らせるので非常に便利で、正直この辺は好みが分かれそうです。

ただし、夜の山や森で「濃い霧が出た場合」に限っては、照射角が広い方が絶対に有利です。

なぜかというと、足元の同じ範囲(例えば半径1m)を照らすのに、照射角の広いライトだとライトを低い位置で持てばよく、ライトの光が霧の水滴の中を通過する距離が短いのでそんなに霧が光りません。

ところがライトを高い位置で持った場合、ライト〜地面までの霧の水滴が全部光ってしまうため、視界が真っ白になりろくに前が見えません。かと言ってライトを下げすぎると足元の一点しか照らさないので危険です。

これは夜間、濃霧の中400m代の山に生き物を探しに入ったときに痛感しました。

信頼性の高い高級品から選ぶか、安価な製品から選ぶか

まず、やたら大光量をアピールしているよく分からないメーカーの品はパスです。

安価でハイパワーなLEDには不安定な製品も多く、安物で大光量のLEDライトはいざという時に点灯しない…というケースにも遭遇します。 

LED懐中電灯は、高価なものは1万円を超えてきます。しかし後述しますが、2千円弱でも十分に安定した品質の製品は買えます。

野外で使う以上、落としたりぶつけたり水没させたり、といった事態はありうるので、その辺をよく考えて選びましょう。

割り切って、品質は良いけど性能はそこそこの品を、予備を含め数本持つのも手です。

ヘッドライト?ハンドライト?

これはもう、筆者の中ではハッキリしています。

手が塞がっても使える必要があるなら(もしくは非常用なら)ヘッドライト、それ以外ならハンドライトが圧倒的に便利だと考えます。

とくに多人数で行動する場合、ヘッドライトをしたまま他の人のほうに顔を向けると、ヘッドライトの光がその人の目を直撃してしまいます。

また、生き物を探して歩くような場合、照らしたい方向へいちいち首を回さなければいけないので肩もこります。

筆者の場合、足場の悪い場所に1人で入る場合はヘッドライトとハンドライトを併用、それ以外はハンドライトを使います。

2.オススメのメーカー・機種は?

これまで使ったことのあるものを少しご紹介しましょう。

LED LENSER

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LED LENSER P14.2

LED LENSER社というドイツのメーカの高性能LED懐中電灯です。

  • きれいで均一で、そして非常に広い配光
  • ズームで照射角を切り替えられる
  • 非常に操作性も良い
  • デザインが素敵

といった特徴からファンの多い高級LEDライトです。

こんな箱に入ってくるので、ガジェット好きな方への贈り物にも良いかも

とくに、下の写真のような広い配光(1mの距離で1m以上の円を作ります)、洞窟の中を歩くときにはめちゃくちゃ有り難かったです。

M7Rで洞窟の壁面を照らしたところ

機能的にもデザイン的にも申し分ないのですが、値段が高いわりには不具合が多いという評価も聞きます(実際に僕も4機種買ったうちの1つで重大な不具合、1つで軽微な不具合がありました)。

また、多くの製品は光色がかなり青っぽいので、写真撮影やビデオ撮影のライトとしても使いたいと考えている方は要注意です。

LED LENSER P14.2(※現行モデルはP14)

デカいです。完全に警備員。

  • 単3電池4本使用
  • 最大光量350ルーメン(現行モデルは800ルーメン)
  • テールスイッチでHigh→Low→切 
  • 防水(IPX4)

このサイズさえ許せれば非常に使い勝手の良いライトで、大容量電池で明るさ控えめ、ランタイム長めの製品です。eneloop使用・Highモードで5-6時間くらいは平気で連続点灯しながら活動できます。

現行のP14は最大800ルーメンとめちゃくちゃ明るいライトになってしまったので、型落ちで安くなったP14.2の方が使い勝手は良いかもしれません。

余談ですが、LED LENSERはしょっちゅう製品のマイナーアップデートをしていて、型番も.2が付いたり外れたり、どれが新製品なのかよく分からない状況になっています。そのせいで、メーカー以外のサイトでは新旧製品のスペックがよくごっちゃになってしまっています。

LED LENSER M7R

予算が許すなら最もオススメ。

リチウムイオン電池(18650)を内蔵し、壁掛け式の充電器で充電可能。そしてサイズ感・明るさが最高にちょうど良く、ランタイムも結構長いです。Highモードで4時間くらい活動してもまだまだいけそうでした。

  • 充電式(リチウムイオン)電池使用
  • 最大光量400ルーメン
  • テールスイッチでHigh→切
    テールスイッチ半押しでHigh→Low→点滅→の切り替え
  • 防水(IPX4)

弊社(キュリオス沖縄)の夜のツアーで、ガイドのメインライトとして採用しています。

LED LENSER P7.2(現行モデルはP7)

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P7.2(上)とP14.2(下)

 

高校時代からの山好きの旧友への結婚祝い用に購入。

コンパクトで、デザイン的には最高に収まりが良いのですが、野外活動には圧倒的にランタイムが足りません。

  • 単4電池4本使用
  • 最大光量350ルーメン(現行モデルは800ルーメン)
  • テールスイッチでHigh→Low→切
  • IPX4

「ポケットに忍ばせておいて、灯りが必要なときに使う」という普通の懐中電灯の使い方が向いています。これがカバンのサイドポケットからさりげなく出てきたら超かっこいいと思いますが。

ちなみにあと一つ、普段は使いませんが万一手が塞がった際(お客様が足をくじいて肩を貸す必要がある場合など)のために、LED LENSERのヘッドライト(H8R)を常備していますが、これも軽くて明るく、大変使い勝手の良いライトです。

GENTOS

国内メーカーです。

全般的にデザインはちょっと野暮ったいですが、安定した品質の大変良いものを作ると定評があります。

またGENTOSのライトは、光色がわりと自然な白寄りなのも特徴です。

DM-032B

キュリオス沖縄でお客様用に貸し出しているライト。

  • 単3電池2本使用
  • 最大光量120ルーメン
  • テールスイッチでON/OFF
  • 防水(IP54)

何本も運用して、たびたび落下させたりしているのですが、ついぞ1本も壊れません。チラついて点灯不良を起こしたことすら記憶にないです。

eneloopで運用すると3時間を超えるあたりから光量が落ちてきますが、足元の視界確保なら4時間くらいは使えます。そして単3×2本なので、暗闇で手探りで電池を交換するのも容易です。

配光は中心部が強く、周辺に行くにしたがって弱くなるタイプです。

このタイプにもメリットはあって、たとえば光にやや敏感な生き物を観察する場合、見つけたと同時にサッとライトを外すのですが、周辺部の暗い光で驚かせないよう観察したり、写真を撮るときオートフォーカスの補助光にしたりすることができるのです。

とりあえずリーズナブルに実用に耐えるメインライトが欲しい、という方にも、メインライトが故障した時の補助用にも全力でオススメできるライト。

SG-337R

すみません、これは使ったことがないのですが、スペックを見ると最高にちょうど良さそうなので。

  • 充電式(リチウムイオン)電池使用
  • 最大光量250ルーメン(点灯時は350ルーメンだが、10秒後に自動的に250ルーメンに減光)
  • テールスイッチでON/OFF
    半押しでブースト(Hi)→Med→Eco→の切り替え
  • 防水(IP67)

実際に使っていないのでランタイムに関しては確実なことは言えませんが、大容量のリチウムイオン電池を積んでいながら250ルーメンと光量を欲張っていないので、相当持つのではないかと思います。

値段は実勢でLED LENSERのM7Rの1/3以下で、たいへんコストパフォーマンスの良い製品です。

3.使い方

LED懐中電灯に「使い方」も何もないのですが、運用の仕方に関するTipsも少しだけご紹介しておきます。

使う前に充電

eneloopで運用するにせよ、充電式の製品を使うにせよ、懐中電灯の灯りだけで野外のフィールド行くときは、予備のライト・電池を含め必ずすべての電池を満充電しましょう。

eneloopを使うなら、4本同時充電できる充電器と8本のeneloopを購入し、4本持ち出している間にいつも残りの4本は充電器に刺さっている…という状態にすると楽です。

なお余談ですが、eneloopには電池容量の多い「eneloop pro」という製品があり、カメラ用のフラッシュなどに愛用する人が多くいます。

しかし「充電しても十分に充電されないトラブルが多発する」という報告もあり、実際に筆者も満充電のはずの状態から切れるはずのないタイミングでライトが切れる…という経験を何度かしているので、eneloop proはシビアな用途では避けたほうが賢明かもしれません。

予備は必ず携行

どんなに高級・高性能な信頼性の高い製品であっても、それ1本だけ持って夜の山に入るようなことは絶対にやらないでください。

ライトを取れないところに落としてしまうなどということも考えられますし、予備のライトがないと電池交換すらままなりません。

必ず1本以上、複数人の場合は人数+1〜2本くらいは予備を携行します。ハンドライトでなく、ヘッドライトでももちろん可です。

可能ならば、持っていく灯りの明るさは合わせる

同行者の持つ灯りとあまりに差がありすぎる場合、明るい方のライトは、暗めのライトに慣れた同行者の視界を妨げることにもつながります。可能ならば事前に相談し、持っていくライトの明るさを合わせます。 

まとめ

長々と書きましたが、懐中電灯なんて言ってしまえばただの灯りです。要は肝心なところで切れさえしなければいい。

野外アクティビティを充実した安全なものにするには、フィールドや参加者の心構え、スキルなどのほうが、どんな機種のLEDライトを使うかよりもはるかに重要です。

それでも道具にこだわってみたいという方は、上記を参考にして選んでみて下さい。

簡単におさらいすると、

  • 爆光の安物はダメ
  • 明るいものが良ければ電池容量とのバランスをちゃんと見る
  • 予備を携行する(1人なら2本、数人で行く場合は人数分)

あ、高品質なLEDライトは、ガジェット好き男子へのプレゼントとしても超オススメです。男性へのプレゼントって難しいですもんね。

(by 宮崎)

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沖縄ではもう4月からセミが鳴き始めています!日本最小のセミ「イワサキクサゼミ」

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沖縄はもう梅雨の気配を感じるようになりました。連日蒸し暑い日が続いています。

さて、少し前から沖縄では、草むらの中から「アンプのノイズ」のような音が聞こえ始めています。バンド練をしていて「誰かアンプ鳴ってな〜い?」「あ、ホントだ。もー誰よ?俺じゃないよ。ほら」「シールド傷んでんじゃね?」みたいな感じで延々と原因探しをさせられるあのノイズに、ほんとにそっくりな音。

実はこれ、セミの声なんです。と言ってもクマゼミやアブラゼミなど夏を代表する大型のセミの仲間ではありません。

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イワサキクサゼミ Mogannia minuta

これは、「イワサキクサゼミ」という小型のセミの仲間の鳴き声。

声はどこで鳴ってるかイマイチ分かりにくい(音響定位しにくい)音ですが、よく聞いているとたいていは高い樹の上からではなく、目線より下の方から聴こえてきます。

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その名の通り草の上にとまるイワサキクサゼミ

そう、「クサゼミ」の名の通り、このイワサキクサゼミは主にイネ科などの草に止まって鳴いています。

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緑色の翅脈(しみゃく)と黒地に金の体毛が美しい

草に止まるだけあって体も小型で、日本に分布するセミの中では最小の種になります。ちなみに「イワサキ」の方は石垣島測候所長であった岩崎卓爾氏の名前から。

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サイズはこんな感じ。本当に小さいです

主に午前中に活動し、午後はピタリと鳴き止んでしまいます。

沖縄県内のR大学の生物専攻の学生さんの中にも「見たことない」「声も聞いたことがない」という方が多いですが、学内にもいっぱいいます。そういう学生さんは大抵、午前中の授業を全部落としたりしています(笑)

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