雨が降ったら出かけよう!カタツムリ観察のすゝめ

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巻貝っていいですよね。あの美しい螺旋、様々な形や色。いくら見ても飽きません。

そんな素晴らしい巻貝の世界を簡単に覗けるのがカタツムリ観察です。カタツムリは人家から山の奥まであらゆる場所に様々な種が生息しています。じっくり観察してみると、種によって形や色、大きさ、いる場所などが違っており、その楽しさに一度はまるとなかなか抜け出せない沼です。今回は沖縄島で観察できる様々なカタツムリたちを紹介していきます。

 

有肺目

カサマイマイ科

 

オオカサマイマイ。ちょっと目を出しててかわいい
朽木に集団で張り付いていた

オオカサマイマイ

沖縄島の全域で見られるカタツムリです。殻は茶色で非常に平たくフリスビーみたいな形をしています。朽木を食べているのか、立ち枯れや倒木の周りにたくさんついていることが多いです。森の中で観察できます。

 

 

キセルガイ科

キセルガイの名の由来は、細長い形をたばこを吸う道具である煙管になぞらえて名前がついています。巻貝のほとんどは右巻きですが、キセルガイ科の多くは左巻きの殻を持ちます。

 

殻は茶色一色のオキナワギセル。成貝の先端はだいたい折れる
かわいい!

オキナワギセル

沖縄島の本部半島と中・南部の森林内で見られるカタツムリです。森林内の生きた木の幹についている姿を見かけます。殻は全体的に茶色で、成貝は先端が折れていることが多いです。殻の表面に地衣類が生えて緑色っぽくなっていることがあります。

 

 

黒くて太い帯模様が入るスジイリオキナワギセル。オキナワギセル同様殻の先端が折れる。
スジイリオキナワギセル

オキナワギセルと違い、沖縄島北部(特にやんばる)の森林内で見られるカタツムリです。見た目はオキナワギセルそっくりですが、殻に太くて黒い帯模様が入っています。こちらも生きた木の幹に張り付いている姿をよく見ます。こちらも殻の表面に地衣類が生えて緑色っぽくなっていることがあります。

 

 

ツヤギセルの殻は白色〜黄白色。全体的に膨らんでいて先端は折れない。
ツヤギセル

沖縄島全域の森林で見られるカタツムリです。全体的に白っぽい色で、成貝になっても殻の先端は折れずに残ります。こちらは朽木の周りについているのをよく見かけます。

 

 

かわいすぎるノミギセル。殻のツヤがたまらない。
ノミギセル類

全長1cm程度の小型のキセルガイです。森林内で木の幹などをはっている姿を見かけますが、小さいため探しづらいです。沖縄島北部では3種ほどが確認されており、見分けるには殻の口の中の構造を観察する必要があります。

ノミギセルの仲間は人差し指と比較するとこんなにちっちゃいです。

 

 

キセルガイモドキ科

 

シックな色合いが好き。
ウスチャイロキセルモドキ

名前の通りキセルガイそっくりの見た目をした貝ですが、決定的に違うのはキセルガイとは違って右巻きの貝であることです。森林内で木の幹に張り付いている姿を見かけますが、あまり多くありません。海岸に近い森にはキカイキセルモドキという別の種類が生息しています。

右巻きのキセルガイモドキ (ウスチャイロキセルモドキ) と左巻きのキセルガイ (スジイリオキナワギセル)。

 

 

ナンバンマイマイ科

 

殻表面の毛が素敵なイトマンマイマイ
イトマンマイマイ(イトマンケマイマイ)

沖縄諸島に分布するカタツムリで、殻全体にビロード状に毛(というよりは鱗のような突起)が生えています。沖縄島では北部の森林内で観察できますが、数は多くないです。

 

 

シュリケマイマイ。よく見ると殻の縁は少しギザギザしており、そこから毛が生えている。
シュリケマイマイ

沖縄島固有種のカタツムリです。沖縄島内の石灰岩地帯に生息しますが、中・南部では非常に数が少なく局所的な分布になっています。平たい見た目で、縁には毛が生えています。また、殻自体も薄く、まだら模様のように見えているのは透けて見えている中身です。湿度が保たれている森の中の、石灰岩の表面で観察できます。

 

 
夜に活動していたオキナワヤマタカマイマイ
オキナワヤマタカマイマイ

沖縄島の中・南部に生息するカタツムリです。殻が高い円錐形になります。殻の模様は個体によって様々ですが、殻の下側や巻き部分の境目(縫合)が黄色っぽくなることが多いようです。湿度が保たれている森林の樹上で観察できます。沖縄県の条例により捕獲等は禁止されています。

 

 

殻が少し低いシラユキヤマタカマイマイ
シラユキヤマタカマイマイ

沖縄島の中・南に生息するカタツムリです。オキナワヤマタカマイマイに比べて殻が低く、そろばんの珠のような形をしています。殻の模様は個体によって様々です。湿度が保たれている森林の樹上で観察できます。沖縄県の条例により捕獲等は禁止されています。

 

 
ヤンバルヤマタカマイマイ。茶色系の殻を持つ個体。
ヤンバルヤマタカマイマイ

沖縄島の北部に生息するカタツムリです。以前はオキナワヤマタカマイマイとして扱われていましたが、殻がやや低く、生殖器の形も違うため別亜種とされています。こちらも殻の模様は様々です。湿度が保たれている森林の樹上で観察できます。沖縄県の条例により捕獲等は禁止されています。

 

 

交尾中のオキナワウスカワマイマイ
オキナワウスカワマイマイ

沖縄島全域で最も普通に見られるカタツムリです。人家の庭や公園、林道沿いなど開けた環境を好みます。殻の色は黄土色から茶色です。かつてはチンナン汁の材料にもされていました。

 

 
夜に活動していたシュリマイマイ
シュリマイマイ

沖縄島全域で見られるカタツムリです。殻の直径は4cmに達し、在来のカタツムリとしては沖縄島最大です。オキナワウスカワマイマイと同所的に見られることもありますが、どちらかというと森の中を好みます。以前は沖縄島北部の個体群をヤンバルマイマイとして扱っていましたが、現在は同種と考えられています。沖縄島の中・南部ではよく似た見た目でやや小さいミヤコマイマイという種も生息しています。

 
 
パンダナマイマイ。まだら模様は中身の模様。
パンダナマイマイ

沖縄島の全域で見られるカタツムリです。殻の周縁には赤い線が入ることが多いです。成貝になると全体的に丸っこくなりますが、全体的にやや平たいものから少し膨らんでいるものまでいろいろな形になります。同所的に生息する外来種のオナジマイマイによく似ますが、こちらの方が大型です。林縁から林内でよく見られます。

 

ベッコウマイマイ科

オキナワベッコウ

沖縄島固有の小型のカタツムリです。つつくとカタツムリとは思えないほどものすごい速さで飛び跳ねて逃げます。その行動から英語圏では本種に対してjumping snailという名前がついています。沖縄島全域の森林で地表付近で活動している姿を観察できます。動画は実際に飛び跳ねている様子です (動画が再生できない方は、こちらよりご覧ください)。

 

 
美しい飴色をしたグードベッコウ
グードベッコウ (グゥドベッコウ)

沖縄島北部の山地で見られるカタツムリです。殻の直径は7mmほどで、他のベッコウマイマイ類よりも殻の巻数が多いのが特徴です。乾燥しているときは落ち葉の下などにいますが、雨がふると地表付近を活動している姿をよく見ます。

 

 

外套膜で殻を覆うベッコウマイマイ

ベッコウマイマイ

沖縄島の特に北部の森でよく見られるカタツムリです。生きているときは外套膜で殻を被っているため殻がツヤツヤです。その美しさから鼈甲細工になぞらえてこの名前がついています。つついても軟体部をしまわず、できるだけ早めに歩いて逃げます。おしりの先が尖っていてかわいいです。

 

ヤマタニシ目

ヤマタニシ科

グリーンが鮮やかなアオミオカタニシ
アオミオカタニシ

沖縄島の全域で見られカタツムリです。鮮やかな緑色の殻が特徴的ですが、実は殻自体は白色がかった半透明で、緑色なのは透けて見える中身です。偏食家なカタツムリで、すす病という病気に感染した樹木の葉にできる黒いカビを食べます。ヤマタニシ科に属し、マイマイ類とは違って触角の根本に目があり、蓋も持っています (写真では見えないですが…)。林縁沿いや林内の樹木の葉裏や幹などで周年観察できます。

蛍光するアオミオカタニシ

実はUVライト (ブラックライト) で蛍光するので、夜間にいそうな場所を照らしながら歩くと割と簡単に見つけられます。

 

 

重厚な見た目のオキナワヤマタニシ
オキナワヤマタニシ

沖縄島のほぼ全域で観察できるカタツムリです。殻は非常に分厚く、とても頑丈です。本種もアオミオカタニシのように蓋を持ち、目も触角の根本にあります。沖縄島では他に北部にクニガミヤマタニシと南部にイトマンヤマタニシが生息しており、どちらも本種より小型ですが、見た目はかなり似ているようです。森林内の落ち葉や倒木の下におり、雨が降ると地表や岩の上などで活動します。

 

 
微細な毛が生えるケハダヤマトガイ (死殻)
ケハダヤマトガイ

沖縄島北部の山地で見られるカタツムリです。殻の表面に微細な毛が生えるその姿は個人的にめちゃくちゃ好きです。つや消しの質感なのもいいですね。湿った森の落ち葉溜まりの中で見られますが、殻の直径は5~7mm程度で色も土や落ち葉にそっくりなので、地面に突っ伏してじっくり探す必要があります。

 

アマオブネ目

ヤマキサゴ科

 

 

白っぽい殻のオキナワヤマキサゴ
こちらは茶色っぽい殻。口を伸ばしてお食事中

オキナワヤマキサゴ

沖縄島のほぼ全域で見られる小型のカタツムリです。本種はマイマイでもヤマタニシでもない別のグループで、アマオブネガイという海にいる巻貝に近いです。眼は触角の根本にありますが、ヤマタニシ科のような蓋は持ちません。殻の直径が5mmほどと小さいため眼につきにくいのですが、森林内の低木や草本類の葉の上にいる姿をよく目にします。

 

ゴマオカタニシ科

 

石灰岩の表面に張り付くフクダゴマオカタニシ
ちっちゃい!!!

フクダゴマオカタニシ

沖縄島の石灰岩地帯で見られるカタツムリです。オキナワヤマキサゴより更に小さく、大きくても2mm程度です。湿度の高い森の石灰岩の露頭などに張り付くようにして探すと観察することができます。いる場所には高密度で生息しています。

 

今回紹介したのは、比較的観察しやすいカタツムリたちですが、沖縄県全体ではなんと140種ものカタツムリが分布しています。その大きさや形、いる場所や食べ物も様々で、一度ハマるとなかなか抜け出せない沼です。また、カタツムリ類は海を超えて移動することができないため、それぞれの島ごとに進化を遂げ、それぞれの島に固有種が、つまり「ご当地カタツムリ」がいるのです。例えば、今回紹介したシュリケマイマイやオキナワベッコウは沖縄島でしか観察できないご当地カタツムリです。もちろん沖縄県以外も例外ではなく、それぞれの場所に固有のカタツムリがいます。皆さんもいろいろな場所を巡ってカタツムリ探しをしてみませんか?

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足元の世界を覗いてみよう!土の中の生き物たち

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 気温が下がってくると地表で活動していた生き物たちはだんだん少なくなっていき、あまり目立たなくなっていきます。そこでオススメなのが土壌動物の観察です。土壌動物とは落ち葉の下や朽木や石の裏、土の中で生活する動物すべてのことを指します。と言われてもあまりイメージが湧かない方もいるかもしれないので、今回はとにかく只管かっこいい土壌動物たちを紹介していきます(中の人の趣味により偏っています)。

 

ムカデ類

脱皮直後の個体。通常は茶色っぽい
ゲジ目のみが持つ複眼。他のムカデ類は単眼を有するか、眼を持たない。

オオゲジ Thereuopoda clunifera

 いわゆるゲジゲジと呼ばれる生き物の一つで、名前の通り普通のゲジ Thereuonema tuberculataに比べて大きな体をしています。特に琉球列島の個体群は大きく、脚を広げると手のひらよりも大きくなります。基本的に咬み付いてはきません(持ったりすると別です)。他のムカデ類が持っていない大きな複眼がかっこいいです。

 

ヒラタヒゲジムカデ Orphnaeus drevilabiatus

 まるでゴカイやミミズのような見た目のジムカデ類。本種は特に派手な見た目などではないですが、なんと国内のムカデ類で唯一発光することができます(写真なかった…)。指でつつくと体表から緑色に発光する粘液を分泌し、ムカデ本体に加えて歩いたところや触った指などもしばらく光ります。咬み付いたりはしないので、見つけたら是非試してみてください。

 

トビズムカデ Scolopendra mutilans

 本州から琉球列島まで広く分布する大型のムカデです。琉球列島の個体群はとりわけ大きく、全長は20cmを超えます。赤っぽい頭部が特徴で、触れると容赦なく咬み付いてきます。咬まれると患部が腫れ上がり、激痛と強烈な痒みが続きますので絶対に触らないようにしましょう。

 

アオズムカデ Scolopendra japonica

 こちらはトビズムカデに比べたらやや小型の種類で、全長は10cm前後、黒っぽい頭が特徴です。こちらも咬まれると痛いので触らないようにしましょう。

 

リュウジンオオムカデ Scolopendra alcyona

 2021年に記載された琉球列島の固有種で国内最大の多足類です。全長は30cmに達し、黒い体に翡翠色の脚を持つ大変美しいムカデです。さらに本種は水陸ともに活動でき、テナガエビ類やサワガニ類などを捕食することが知られています。本種は種の保存法で保護されていますので、捕獲などは禁止されています。

 

ヤスデ類

オキナワアマビコヤスデ Riukiaria pugionifera

 体長が6cmを超える大型のヤスデで、黄色〜橙色の体に黒い帯模様が入ることが多いです。沖縄本島のヤスデ類では最大種で、春と秋に沖縄島北部の林床で歩く姿をよく観察されますが、冬でも落ち葉や朽木の下などにいるのを見かけます。硬く張り出した外骨格がとてもかっこいいです。

 

ホルストアマビコヤスデ沖縄島北部個体群の一例
ホルストアマビコヤスデ沖縄島中・南部個体群の一例

ホルストアマビコヤスデ Riukiaria holstii

 沖縄島の北部と、中・南部の一部に生息するヤスデで、体長は4〜5cm程度です。北部地域の個体群は灰色がかった体色をしていますが、中・南部の個体群では黄色や橙色など様々な体色をしています。こちらも春と秋によく観察され、冬は朽木や落ち葉の下で見かけます。

 

マクラギヤスデ Niponia nudulosa

 茶色い甲冑のような外骨格がかっこいいヤスデです。朽木の裏に特に多く、のそのそとゆっくり歩きます。

 正面から見ると本当に甲冑の兜のようでかっこいいです。ちなみに本種は北海道南部から台湾、および中国東部とかなり広い範囲に分布しています。

 

ヤマシナタマヤスデ Hyleoglomeris yamashinai

 低地から山地の朽木の下に多いヤスデです。ダンゴムシにそっくりですが、れっきとしたヤスデの仲間です。体長は6mm前後で、つつくと背中の中央から透明の防御液を出します。この防御液には麻酔作用があり、天敵を眠らせて身を守ります。

 

マギータマヤスデ Hyleoglomeris magy

 こちらは森林や山地の落ち葉の下に多い種です。和名の「マギー」とは沖縄島の方言で「大きい」という意味で、体長が10mm前後と国内のタマヤスデとしてはかなり大きいです。

 

クモ類(クモ綱)

 クモ綱はクモはもちろん、ザトウムシやサソリ、ダニなど多くの生き物を含むグループです。体が頭胸部と腹部の2つで構成され、頭胸部には触肢と鋏角を持っています。

メスの成体
夜間に巣穴の入り口で獲物が来るのを待ち伏せる個体

キムラグモ類 

 沖縄島広い範囲で見られるクモです。林縁や林内の土がむき出しになっている法面などに、入り口に蓋があるトンネルを掘って生活しています。夜間には巣穴の入口付近で待機し、通りかかった昆虫などを引きずり込んで捕食します。沖縄島ではヤンバルキムラグモ Heptathela yanbaruensisやオキナワキムラグモ Ryuthela nishihirai、オキナワトタテグモ Latouchia swinhoeiなど同様の生活を送るクモを数種類観察できます。

 

コアシダカグモ類 Sinopoda spp.

 昼間は倒木や石の下、夜間は林床の低木や草本の葉の上で観察できるクモです。同じアシダガクモ科のアシダカグモよりも小型で、全体的に体色が濃いです。琉球列島では島ごとに複数種に種分化していることが知られています。沖縄島内では同所的に外見がよく似たリュウキュウコアシダカグモS. okinawanaとシロスジコアシダカグモ S. albofasciataが生息しています。

 

UVライトで蛍光するシマアカザトウムシ

シマアカザトウムシ Kilungius insulanus

 林内の倒木や石の下で観察できるザトウムシの仲間です。ムキムキに発達した触肢と鋏角が大変かっこいいザトウムシです。UVライトを照射すると2枚目のように美しく蛍光します。

 

サスマタアゴザトウムシ Nipponopsalis abei

 かなりムキムキのアゴ(正確には鋏角なので付属肢)を持つかっこいいザトウムシです。先程のシマアカザトウムシとは違い触肢は発達していません。林内の朽木の裏で時々見かけます。

 

等脚類

コシビロダンゴムシの仲間と思われるもの

ダンゴムシの仲間

 倒木や石の下などでよく観察されます。複数種おり、アリの巣の付近で見つかるものや、樹上で活動するものもいます。大きさも数mm程度から1cm近いものまで様々です。写真のコシビロダンゴムシの仲間と思われるものは夜間に樹上で活動していました。背板の縁の反りと模様が個人的に好みです。

昆虫類

オキナワアギトアリ Odontomachus kuroiwae

 沖縄島中部以北の林内で、倒木や石の下で観察できる大型のアリです。赤い体に大きなアゴが特徴で、この顎はなんと180度以上開きます。開いた顎をものすごい速さで閉じて「パチン」と音を立てながら噛み付いて攻撃したり、開いた顎を地面に押し当てて閉じることで後方に跳ね逃げたりします。腹部末端にはオオハリアリのように毒針があるので、むやみに掴むと刺されます。

マダラゴキブリ Rhabdoblatta guttigera

 林内や沢の付近の倒木や石の下に見られる森林性のゴキブリです。幼体は水中で活動することができ、石をめくると沢へ飛び込んで逃げていきます。成体は夜間に低木や草本の葉上でよく見られ、しばしば飛翔します。

 

ヤンバルトサカヤスデを捕らえたオキナワハラアカサシガメ

オキナワハラアカサシガメ Scadra okinawensis

 林縁の石や倒木の下でよく見られるサシガメの仲間です。夜間になると地表を徘徊し、ヤスデ類を専門的に捕食します。サシガメ類は不用意に触ると口吻で刺し、毒(消化液)を注入してきます。刺されるとかなり痛いようです。

 

ホルストネジアシヤスデを捕らえたアシマダアラアカサシガメ

アシマダラアカサシガメ Haematoloecha rufescens

 オキナワハラアカサシガメと同様の環境で見られるサシガメで、こちらもヤスデを専門的に捕食します。真っ赤な体色が鮮やかでかっこいいです。

 

陸産貝類

ヤマタニシ類 Cyclophorus spp.

 林内の石や倒木の下でよく見られます。雨天時や夜間は地表で活動している姿も観察できます。マイマイとは違って蓋を持っており、分厚く丈夫な殻も特徴です。沖縄島では外見で区別が難しい種が複数確認されています。

 

ツヤギセル Nesiophaedusa praeclara

 林内に見られるキセルガイの仲間です。同所的にスジイリオキナワギセルが生息しますが、スジイリは生きた樹木の樹皮に付着するのに対し、本種は死んだ樹木(朽木)に付着しています。

朽木に群がる

オオカサマイマイ Videnoida horiomphala

 ツヤギセル同様、朽木に付着するカタツムリです。非常に薄い形状の殻を持つのが特徴で、朽木の狭い隙間に入り込んでいる姿も観察できます。あまりの薄さにお客様によく「これ本当に生きているんですか?」と聞かれます。

 

扁形動物

コガイビルの仲間

 やんばるの森で時折見かける太く巨大な真っ黒のコウガイビルで、全長は15cmを超えます。分類学的検討がなされているのかは不明です。写真はカタツムリ類(シュリマイマイ?)を捕食しているところです。

環形動物

久米島で撮影したUVライトで蛍光するミミズ。2022年に記載されたアズマフトミミズ属のAmynthas kumeだろうか

ミミズ類

 沖縄島にはヤンバルオオフトミミズやアカシマフトミミズなどの大型のミミズがおり、前者は全長50cmを超える大型のミミズです。やんばるの林道沿いにある側溝に溜まった落ち葉溜まりの中や、雨が降っている夜の林道上で見かけます。

 今回紹介したのは独断と偏見で選んだ土壌動物たちでしたが、実際にはものすごいたくさんの動物たちを観察することができます。特に雨が降ったあとの湿った林内などは種数も個体数も多く、観察にはもってこいです。本当は片っ端から紹介したいですが、文量がものすごいことになるので、またいつかの機会に紹介していこうと思います。

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オフシーズンこそ山に行こう!秋と冬の植物たち

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 新北風(ミーニシ)も吹き始め、すっかり秋になった沖縄島。 このまま気温が下がり冬になると生き物もいなくなる…と思われがちですが、そんな事はありません。 沖縄島では冬に観察できる生き物もたくさんいます!今回は秋や冬に観察できる植物を紹介していきます。

リュウキュウルリミノキ (タシロルリミノキ) Lasianthus fordii

まずはこちらのブルーベリーみたいな実をつけるリュウキュウルリミノキ。残念ながら実は美味しくないようですが、鮮やかな色でやんばるの森を彩ります。登山道などでごく普通に見られる植物です。

 

リュウキュウハナイカダ  Helwingia japonica subsp. liukiuensis

漢字で書くと「花筏」。葉の中央に花が咲く姿からそう名付けられました。秋から春にかけて花を咲かせます。

 

ヤマビワソウ Rhynchotechum discollor

秋から冬にかけて白い実をつける低木です。実はやや薄い梨のような味で、みずみずしくて美味しいです。

 

オキナワジイ (イタジイ) Castanopsis sieboldii subsp. lutchuensis

沖縄島の中部〜北部の非石灰岩地帯に見られるシイの仲間です。どんぐりはアクがなく、生でも食べられます。

 

オキナワウラジロガシ Quercus miyagii

こちらも沖縄島の中部〜北部の非石灰岩地帯に見られるどんぐりの仲間で、11〜1月頃に日本最大のどんぐりを落とします。ただし観察できる場所がやや限られています。ちなみにどんぐりは激マズいです。

 

シマサルナシ Actinidia rufa

沖縄島の北部で見られるキウイの仲間です。実はキウイを小さくしたような形をしていて、味もキウイそのままでとても美味しいです。晩秋から冬にかけて林道や登山道で実を拾うことができます。

コダチスズムシソウ (セイタカスズムシソウ)  Strobilanthes glandulifera

6年に一度、12〜1月ごろに一斉開花を行う植物です。写真は2021年の12月に撮影したものなので、次の開花は2027年の12月頃だと思われます。薄紫色の花が美しいです。 

 

寄生植物

多くの植物は光合成を行いますが、実は光合成をやめて何かに寄生して生活している植物もいます。沖縄島では様々な寄生植物が見られますが、今回は秋冬に観察しやすい3種を紹介します。

ヤッコソウ Mitrastemon yamamotoi

やんばるで12月頃に見られる植物で、光合成をせずに樹木の根から栄養を吸う寄生植物です。大名行列の奴に見立てて名前がつけられました。名付け親は朝ドラで有名になった牧野富太郎です。

 

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キイレツチトリモチ Blanophora tobiracola

こちらも沖縄島の主に石灰岩地帯で冬に見られる寄生植物です。まるでキノコみたいな形をしています。トベラやシャリンバイなどの根に寄生します。

 

リュウキュウツチトリモチ Blanophora fungosa

一方こちらは沖縄島南部の琉球石灰岩地帯で見られるツチトリモチの仲間です。こちらも知らなかったらキノコにしか見えません。クロヨナなどの根に寄生します。

 

シダ植物

シダ類は基本的に常緑なので、年中観察できます。しかし見分けるのが難しく、スルーされてしまいがちです。冬は他の植物と一緒に是非シダも観察してみましょう。今回は特徴的なシダを3種選抜して紹介します。

ヒカゲヘゴ Cyathea lepifera

沖縄島の中部以北で見られる日本最大のシダ植物です。幹には葉が脱落した小判型の痕が残ります。この痕を触ると金運が上がるという話もあるようです。私は上がっていませんが…

 

リュウビンタイ Angiopteris lygodiifolia

大きく成長する根茎を龍の鱗になぞらえて名付けられた大型のシダです。葉は全長2mを超えとても迫力があります。

 

コバノカナワラビ Arachniodes sporadosora

林道沿いや登山道で普通に見られる小型のシダです。葉は光沢があり、硬く革質で、まるで針金で作られているかのような質感です。

 

タイワンコモチシダ (ハチジョウカグマ)  Woodwardia prolifera

低地〜山地の林縁沿いなどで見かけるシダです。葉の表から無数の子株を出すことからこの名がついています。子株は落ちると新しい株として成長していきます。

まとめ

春〜秋に比べて気温が下がり、昆虫や爬虫類がどうしても少なくなってしまう冬ですが、そんな時期だからこそ普段スルーしてしまいがちな植物たちに目を向けるチャンスです。今回紹介した植物たちは冬だけ花や実をつけたり、そもそも冬にしか姿を表さない種もいます。このチャンスに是非植物観察をしてみませんか?

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【写真満載】ヤシガニってどんな生物?食べられるの?はさまれたらどうなる?論文も引用しつつ解説してみるよ

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「ヤシガニ」をご存知でしょうか?

テレビなどのメディアでもときどき取り上げられるので、写真や映像で見たことがある人も少なくないかもしれません。

カニでやエビに少しずつ似ているけれど、でもどちらでもない、とても奇妙な形をした生き物です。

ヤシガニ…ヤシガニって何だ?

いかにも海の中にいそうな形をしていますが、さにあらず。成長すると海水にも淡水にも入ることはなく、森の落ち葉の上をのしのしと歩き回ります。

体はがんじょうな殻に覆われ、非常にがっしりしています。

甲はヘルメットのような形をしていますが、よく見ると上の写真のように、左右に分かれています。はさみや脚は硬いですが、甲の部分はふつうのカニのようにカッチカチな硬さではなく、硬めのソフトビニール人形のような手ざわり。

脚は5対(片側5本の計10本)あり、いちばん前の脚は強大なはさみ(鉗脚)になっています。

そしてよく見ると、実は一番後ろの脚も小さなはさみになっています。

ヤシガニは何の仲間?

カニでもエビでもないような形をしたヤシガニは、実はヤドカリ、それも「オカヤドカリ」に非常に近い生き物です。

ミトコンドリアの遺伝子領域の再配列順序でみたカニ・カニダマシ・ヤドカリ類の系統関係(ML法による系統樹).Morrison et al, 2001を改

エビ目ヤドカリ下目(異尾下目)、つまり「いわゆるヤドカリ」の中でもとりわけ陸上に適応したのがオカヤドカリの仲間で、その中でも進化の過程で貝殻を背負うことをやめてしまった変わり者がヤシガニ、と言えそうです。

こう見るとオカヤドカリっぽいですね

ちなみにオカヤドカリは亜熱帯〜熱帯にかけて分布するヤドカリで、名前のとおり陸上で暮らしています。

ヤドカリ類のしっぽ(腹部)はやわらかく、巻き貝のら線形にあわせて「くるん」と巻いているものがほとんどです。

ところが殻を背負うことをやめてしまったヤシガニは腹部をお腹の下に折りたたむような形で保護しており、さらに腹部は上半分が殻で覆われています。

一方、腹部の下半分、内側に折りたたまれいる部分(上の写真の◯の部分)は実はぷにぷにと柔らかいのです。

が、ここは強力なハサミのリーチ内なので、さわってみようかな、なんて気は起こさないこと!!

ヤシガニもオカヤドカリもエラ呼吸

ヤシガニやオカヤドカリはエラを持っていて、そのえらを常に水でしめらせ、空気に触れさせることで水に溶けこんだ酸素を取り入れて呼吸しています。

この仕組みのおかげで、空気中で呼吸することができるのです。

ヤシガニの場合、陸上生活への適応が進んだ結果、えらが水で満たされてしまうと十分な酸素が得られず、水の中に長時間いると溺れ死んでしまうようです。

ヤシガニの大きさは?

ヤシガニがもうひとつ他のオカヤドカリの仲間と違う点は、そのサイズです。ちなみに上の写真はごく小型の個体です。

では大きいのはどのくらいか?

はい、どーん!

この個体で体長20cm、体重2kgほどでしょうか。

これでも最大級にはまだ遠く、最大で4kgほどになる、いやもっと大きくなるのでは?と言われています※1

また、かなり長寿であることが知られ、最近沖縄で行われた研究で、50年ほど生きるだろうということが分かっています(Oka et al, 2015)※2

写真の個体は、現在の筆者(32)より先輩である可能性も大ですね(笑)

※1 カニなどの甲殻類の仲間には、大きくなるにつれ成長はゆっくりになるものの、生きている限り脱皮を続け大きくなるものが少なくありません。なので、時折長生きした結果とんでもなく大きな個体が見つかることがあります。

※2 Oka S, Miyamoto K, Matsuzaki S, Sato T. Growth of the Coconut Crab, Birgus latro, at its Northernmost Range Estimated from Mark-Recapture Using Individual Identification Based on Carapace Grooving Patterns. Zoolog Sci. 2015 Jun;32(3):260-5. doi: 10.2108/zs150008.

…こんなサイズのヤシガニ、夜の森の中でいきなり会ったらちょっとビビリますよね?

ヤシガニは、陸上生活をする節足動物(昆虫やクモ、ムカデ、カニなど)としては、間違いなく地球上最大(重さ)の種です。

この「大きさ」は、身を守るのにも役立っていると考えられます。

特に1kgを超えるような大きさに成長してしまえば、自然界にヤシガニをおびやかせるような生物はそうそういません。…人間を除いてですが。

ヤシガニは、貝がらを捨てて大きくなるという進化の道を選んだのでしょうか。あるいは、大きくなりすぎた結果、貝がらを背負えなくなったのでしょうか。答えはヤシガニ自身も知らないかもしれません。

ヤシガニは木を登る??

次はヤシガニの行動や生活史について。

ヤシガニは英語でもcoconut clab(つまり椰子蟹)と呼ばれます。

ヤシの木に登って、実を落として食べる…という話が昔から都市伝説的に語られていますが、これは真実ではない模様。

ですが、木登りが大変うまいのは事実です。

脚でがっしりと木の幹をつかみつつ、ビックリするほどスルスルと木に登ることができます。

巨大な個体でも、この通り。ちなみに後ろ向きで登ることもできます。

オーバーハングした岩もこの通り

また、ココヤシの実を食べるのも事実のようです。(沖縄にはもともとココヤシは分布していないので、実際に食っているのを見たことはありません)

基本的に動物性のものも植物性のものも食べる雑食です。ほかにもアダンの実などが好物で、アダンに関しては地面に落ちたものだけではなく木に登ってなっている実を食べたりもするようです。

余談ですが、アダンの実は完熟すれば人間も食べることができます。味は「あんまりおいしくないカキ」という感じ。熟れていないと激渋だし、熟れるとあっという間に大量の虫がたかるので、タイミングが難しいです。

ヤシガニにはさまれるとどうなる?

ヤシガニを有名にしたものの一つが、ヤシガニの「はさむ力」の強さです。

ハサミ状になったヤシガニの第一脚

これまでも「凄い力だ」とは言われてきましたが、最近、ヤシガニの「はさむ力」を本格的に計測した研究が行われました(Oka et al, 2016)※3

※3 Oka S, Tomita T, Miyamoto K. A Mighty Claw: Pinching Force of the Coconut Crab, the Largest Terrestrial Crustacean. PLOS ONE. 2016 Nov. doi:10.1371

この研究によれば、これまでに計測された最大の力は2キロ超の個体の1765N(ニュートン)。最大級の個体ではその力は3000Nを超えるのではないかと言われ、これはライオンのかむ力に匹敵するのではないかと考えられています。

人間の指の骨などは本当に簡単に砕いてしまうくらいの力なので、くれぐれもはさまれないように注意が必要です。

ちなみに写真は、ヤシガニの大型個体を見つけて一緒に写真を撮ろうとしたところ、服をつかまれ、ものすごい力でたぐり寄せられてビビっている筆者。

この後、シャツを脱いで危機を脱しました。

その後、シャツをつかんだまま後退して逃げようとするので取り返そうとしましたが、なんと体重70kgのこちらが引きずられます(笑)(上の論文によると、大型の個体は30kgの物体を持ち上げる力があるそうです)

ヤシガニがあきらめて放してくれるのを待って、なんとかシャツは取り返しました。

ヤシガニは食べないほうがいい?

ヤシガニと言えば、とにかく「珍しい食材」としての情報がクローズアップされます。

でも、はじめに言っときます。今後、ヤシガニは食べるのはなるべく止めておきましょう。理由は2つほどあります。

理由①:とても希少

すでに書いたように、ヤシガニは自然界では天敵の少ない、かつ長生きな動物です。

つまり、たとえたくさんいるように見えても、「長生きで死なないからたくさんいる」のであって、捕まえて食べてしまえばあっという間に減ってしまうのです。

このような動物は、他の魚などのように人が「資源」として利用するの向きません。

養殖するとしても、あまりに成長が遅いという問題があります。食べられるくらいのサイズ(殻がたいへん厚くあまり身が入っていないので、体重500gくらい必要)になるのに、オスで10年以上、メスは25年かかると考えられています。養殖の方法が確立したとしても、とても商売としてやっていけなさそうですね。

さらに、ヤシガニが生息することのできる環境は年々減り続けています。とくに沖縄本島では、一時期絶滅したのではないかとさえ言われていました。

現在では生息地が何ヶ所か確認されていますが、環境省のレッドリストでも絶滅危惧II類(VU)に指定されており、絶滅のおそれがあることに変わりありません。

生息にはこんな感じの環境と、大小の洞窟とがセットで必要

各島でも減り続けており、多良間島ではようやく繁殖期の個体の捕獲を禁止する罰則付きの条例が制定されました。

テレビや観光雑誌などでグルメ食材として取り上げられることがありますが、観光で来た人が食べるほど数がいるような生き物ではないことは確かです。

文化としてヤシガニを食べるという地域もありますが、これも人口密度の低い地域で、ごくたまに獲って食べる…というくらいでないと、とうてい成立しないものです。

不幸なのは、沖縄県内でこの事実があまり知られておらず、「ヤシガニ」というと食べることを連想してしまう県民がいまだに多いことです。

ヤシガニにかぎらず、逆に希少性を売りにして高い値段で提供する…という商売をごくたまに見かけますが、これはもう論外ですね。

理由②:食中毒のリスク

ヤシガニ自身は毒を作りませんが、さまざまなものを食べるヤシガニは、食べたものによっては猛毒を持つことが知られ、死亡例もあります。

ハスノハギリという木の実がその原因になっているという説もあるものの、まだはっきりしたことは分かっていません。

ハスノハギリはこんな葉を持つ樹

一部地域では、毒のある個体は茹でたときの色で判断できると信じられていますが、科学的根拠は全くなく、明らかな迷信です。

(他のエビやカニの仲間と同じで、加熱によってタンパク質と結びついていたアスタキサンチンが分離して赤系の色に発色するため、茹でると必ず赤くなります)

ヤシガニと沖縄文化

沖縄にはかつてヤシガニを食用としていた地域がある一方、ヤシガニを「死者の魂をあの世に送る存在」として、決して食用にしなかった地域もあるようです。

かつて奄美・琉球では死者の遺体を洞窟に安置して白骨化させる「風葬」が一般的でしたが、この風葬の期間、遺体の肉を食べてきれいに取り去ってくれる代表的な生物が、ヤシガニやオカヤドカリだったということです。

洞窟内のヤシガニ

さすがにご遺体の肉を食べた(かもしれない)生き物を食べるというのは抵抗があるようで、どうもそのような言い伝えが色濃く残っている島や地域では、ヤシガニも比較的多く残っているようです。

どこに行けばヤシガニに会えるの?

上記のように沖縄県内ではヤシガニを見つければ捕まえて食べようとする人がまだ多く、残念ながらヤシガニが残っている地域について、一切具体的な情報を公開することはできません。

SNSなどに上がっている写真のGPS情報から簡単に場所を特定される時代ですので、ヤシガニを見つけても安易にスマフォで撮った写真をアップしないよう、お願いいたします。

ヤシガニは海岸に近い森に生息しています。ふだんは海からかなり離れたところにも住んでいますが、産卵の季節になると海に下り、腹に抱えた卵を海水に浸けます。すると、その刺激で卵からヤシガニの幼生がふ化して海の中へ飛び出していきます。

しばらくプランクトンとして育った幼生は、はじめオカヤドカリそっくりな形になり、貝がらを背負って上陸してきます。そしてしばらく成長するうちに貝がらを捨て、親と同じような生活スタイルに落ち着きます。

オカヤドカリとヤシガニ幼生の見分け方ですが、オカヤドカリは貝がらにこもるときにハサミと脚を使い、自分が入っている貝がらにフタをすることができます。

たとえ小さい個体でも、こんな風に脚とハサミを使ってフタができるのがオカヤドカリ

多少はみ出ることはありますが、とにかくハサミや脚を組み合わせてピッチリ隙間を塞ぐことができるのがオカヤドカリです。

これに対して、貝がらを背負っている時期のヤシガニは、貝がらにこもっても隙間だらけで、オカヤドカリほどうまく入り口を塞ぐことができないそうです。

ヤシガニはペットとして飼える?

正直なところ、筆者もヤシガニを飼ってみたいと思ったことが何度か…いや何度もあります。ただ、ヤシガニを長期飼育するのは大変難しいそうです。

ヤシガニに限らずオカヤドカリもですが、雑食性の生物の飼育は餌の栄養バランスがものすごく難しく、人間の与える餌では栄養に偏りが生じてなかなかうまく飼育できません。

また、適度な湿度があってなおかつ風通しがないと脱皮不全などで死にやすく、そのあたりのコントロールも非常に難しいようです。

オカヤドカリは数年生かした、という話をたまに聞きますが、オカヤドカリも20年くらいは生きると考えられているので、健康な状態で長生きできているかは疑問です。

プラケースなどに入れて数日飼うというのだと、プラケースを破壊して脱走する可能性が大です。また、水分が足りなかったり熱がこもる場所に置いていたりすると簡単に死んでしまいます。

もし見つけても、長生きさせる自信がないならその場で観察して逃がすのが最良です。

まとめ

  • ヤシガニはオカヤドカリの仲間
  • ヤシガニにはさまれると超危険
  • ヤシガニは数が減っており、成長も遅いため、食べるべきではない

ヤシガニは学術的に興味深いのはもちろん、なにより出会って非常に楽しい生き物です。

こんな生き物、子どもたちが見つけたら大はしゃぎなのは容易に想像できると思います。

美味しいという話も聞きますが、その「食体験」は、この先何十年もそのヤシガニが地元の子どもたちを楽しませる可能性を奪ってまで得るものでしょうか。

野生の生き物を捕まえて食べるというのは必ずしも悪ではありませんし、うまくやれば人が自然に依って生きていることを再認識素晴らしい体験にもなり得ます。

ただ、ヤシガニはそれをするにはあまりに成長の遅い生き物で、また今ではあまりに数が少なくなりすぎました。

せっかくお互いに生き物としては長寿なのですから、もしヤシガニに出会っても、「10年後また会おうな!」と言ってそっと逃してあげましょう…!

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沖縄のサンゴに何が起こっているの?もっと知りたいサンゴの白化現象!

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2016年、沖縄県内外で話題になったサンゴの白化現象。皆さんはニュースや新聞でその話題をご覧になりましたか?沖縄でダイビングやシュノーケリングを楽しめば、ほぼ必ずと言っていいほど目にするサンゴたち。そんなサンゴに何が起こったのでしょうか。今回は沖縄で起こっているサンゴの白化現象についてご紹介します。

 

2016年の沖縄の海で起こったこと

2016年7月31日、恩納村にて撮影。リーフ内のハマサンゴの仲間が白化していた。

 

2016年は台風の数が少ないイメージがありますが、実際に発生した台風の数は平年並みでした。ただし、台風1号の発生が7月と遅く、沖縄地方に接近した台風の数は平年より1ヶ月遅れて9月がピークとなっていました。

海水温をみてみると、台風の影響を受けた9月を除く6月〜8月、10月〜12月で平年より海水温が高い状態が続いていました。台風には浅いところの温かい海水と深いところの冷たい海水をかき混ぜて浅い場所の海水温を下げる働きがありますが、2016年はそうはいかなかったようです。

その結果、離島を含む沖縄各地でサンゴの白化現象がみられ、キュリオス沖縄がツアーで利用している恩納村のフィールドでも白化したサンゴを多数確認できました。

その後、学会等で情報交換したところ、沖縄本島周辺でのサンゴの白化は局所的なもので、場所によっては健康なサンゴもしっかり残っていることがわかりました。

 

そしてニュースで最も話題になっていたのは石垣島と西表島の間にある石西礁湖と呼ばれる場所。こちらは2016年6月中頃から海水温が30℃を超える期間が約2ヶ月も続いたとのこと。2016年7月から8月にかけて行われた調査では、調査地点35か所において、海底を覆っているサンゴのうち、少しでも白化しているサンゴが占める割合の平均が89.6%となっていました。

 

全ての地点で白化したサンゴ(ピンクと白色)がみられた。引用:石西礁湖のサンゴ白化現象の調査結果について(お知らせ), 図2 各地点の白化調査結果, 環境省 那覇自然環境事務所, 2016年08月31日

 

上記の2016年7月・8月に行われた調査結果を見てみると、場所によってはほとんどのサンゴが「全体が白化している」状態(白色)であったり、逆に半数以上が「白化していない」状態(緑色)だったりと違いはあるものの、全体として一部でも白化したサンゴが大多数を占めているのがわかります。

その後、2回に渡って追跡調査が行われ、白化したサンゴの様子を追っています。その結果、2016年11月・12月の調査結果では調査地点全35地点において平均して70.1%のサンゴが死亡していたことがわかりました。

 

円グラフの黒い部分が「全体が死亡した群体」の割合となる。引用:西表石垣国立公園 石西礁湖のサンゴ白化現象の調査結果について, 図3(3) 調査結果(3回目:11 月下旬~12 月下旬),   環境省 那覇自然環境事務所, 2016年08月31日
健康な状態の石西礁湖のサンゴ群落。2015年4月, 石西礁湖。写真提供:池内絵里 氏(琉球大学大学院 理工学研究科)
多くのサンゴ群体が白化している。2016年9月, 石西礁湖。写真提供:池内絵里 氏(琉球大学大学院 理工学研究科)
広い範囲で白化しているのがわかる。2016年9月, 石西礁湖。写真提供:池内絵里 氏(琉球大学大学院 理工学研究科)
2016年の大白化から一年。死亡したサンゴが形をとどめたまま残っている。2017年9月, 石西礁湖。写真提供:池内絵里 氏(琉球大学大学院 理工学研究科)

 

その他、石垣島や宮古島で起こった2016年サンゴの白化について、観光事業者の皆さんが情報発信をしています。パッと見た感じですごくきれいに見える白化したサンゴの写真の数々。現場の方々の複雑な心境が伝わってきます。

 

 

2017年の沖縄の海で起っていること

2017年8月19日、恩納村にて撮影。リーフ内のシコロサンゴ、ハマサンゴの仲間が白化していた 。

 

2016年も白化が観察された恩納村のポイントでは、2017年8月にリーフ内で多数の白化群体を確認しました。他の地点の情報はまだ把握できていませんが、NOAA(National Ocean and Atmosphere Administration, アメリカの国立海洋大気庁)が出しているサンゴの白化注意報では、9月現在でAlert Level 2となっており、サンゴの死亡が予想されるレベルとなっています。

9月16日の時点でも沖縄近海はAlert Level 2となっている。引用:Daily 5km Satellite Coral Bleaching Heat Stress Monitoring, 2017年9月16日

 

まだ全体の情報がまとまっていないので2017年がどういう状況なのかは不明です。昨年と同様に台風が少なく、深いところにある冷たい海水と表層の温かい海水が撹拌されず、水温が高い状態が続いているようです。

暑かった…7月の沖縄 海水温が過去最高 風弱く日射が多い|沖縄タイムス, 2017年8月2日

 

サンゴの白化はなぜ起こる?

シコロサンゴの仲間。薄い葉のような形をしている。

 

ここでようやく本題です。そもそもサンゴが白化するとき、サンゴに何が起こっているのでしょうか?

サンゴはクラゲやイソギンチャクと同じ刺胞動物の仲間で、炭酸カルシウムでできた白い骨格を作るのが特徴です。そしてもう一つの特徴として、サンゴの体の中には「褐虫藻(かっちゅうそう)」と呼ばれる小さな藻類が暮らしており、サンゴの体内で光合成をしています。

褐虫藻は名前のとおり褐色をしているため、多くのサンゴは茶色っぽい色をしています。この褐虫藻は、光合成をして作った栄養分をサンゴに渡し、サンゴも日光の当たる場所や光合成に必要な成分を褐虫藻に提供しています。このように、サンゴと褐虫藻は共生関係を築いています。

ちなみに褐虫藻がサンゴの体内に共生していることを最初に発見したのは、日本学術振興会が1934年にパラオに開設した「パラオ熱帯生物研究所」で研究を行っていた川口四郎博士です。1944年にその研究成果を報告しています。

日本人なら知っておきたい、日本人研究者のパラオでの活躍 ~パラオ熱帯生物研究所~|Ocean+α

 

 

サンゴの白化現象は、この褐虫藻がサンゴに消化されたり、体の外に吐き出されたりすることでサンゴの体内から失われ、サンゴの白い骨格が透けて白く見える現象です。

サンゴが白化する原因としては、強い光、高水温、低水温、低塩分濃度などのストレスが知られています。これらのストレスが褐虫藻が行う光合成反応に影響することで、活性酸素が発生します。活性酸素は、DNAやタンパク質にダメージを与えるやっかいな物質です。これがサンゴの細胞内で様々な障害を引き起こすため、サンゴと褐虫藻の共生関係が崩れると考えられています。

 

白化したハマサンゴ、シコロサンゴの仲間。

近年では褐虫藻がサンゴの体外に放出されるだけでなく、褐虫藻自体が色素を失って透明になったり、小さく縮小したりするなどの細胞異常を経て死んでしまい、白化してしまうこともわかってきました。

また、高水温下でのバクテリアの感染によりサンゴの白化が進むことも最新の研究で報告されています。傷ついたサンゴはバクテリアに感染しやすく、高水温で白化しやすいという実験結果が示されていました。海水浴客による踏みつけでサンゴが傷つくと白化を促進してしまう可能性も考えられますね。

 

白化したサンゴはどうなるの?

健康なサンゴは褐虫藻がもつ色素により茶色をしている。

 

勘違いされることも多いですが、白化したばかりのサンゴはまだ死んでいません。白化したサンゴに近づいて観察してみると、褐虫藻を失って透明になった小さなイソギンチャクのような形をしたサンゴのポリプがまだ生きているのがわかります。

そのため、例え白化したとしても環境条件が改善されればサンゴ体内で再び褐虫藻が増殖し、色を取り戻すことがあります。軽度な白化であれば毎年夏の時期に見かけるため、白化すること自体は珍しい現象ではありません。

 

白化したばかりのミドリイシ。
まだら状に白化しているハマサンゴの仲間。

 

それでは環境が改善されなかった場合、サンゴはどうなってしまうのでしょうか?

白化後もストレスに晒され続けると、白化したサンゴはそのまま死んでしまいます。体内に共生していた褐虫藻がいなくなり、栄養分を分けてもらえなくなったサンゴは、体内に貯蔵していた脂肪を分解して必要なエネルギーを補います。

そのため、白化して弱ったサンゴは貯蔵している脂肪の量が劇的に減ることが報告されています。そして、環境が改善されるより先に貯蔵した脂質が尽きてしまうと、先の石西礁湖の写真でもお見せしたように死んでしまうのです。死亡したサンゴは藻類に覆われ、下の写真のような姿になってしまいます。

 

少しわかりにくいが、褐色や紫色がかった藻類がサンゴの骨格を覆ってしまっている。
白化して死亡したミドリイシの仲間。

 

こうなってしまうと景観が悪化するだけでなく、生息する生き物にも影響がでます。1998年に起きた大規模なサンゴの白化現象の後、サンゴをエサにするテングカワハギやチョウチョウウオの仲間がいなくなってしまったという報告があります。昨年の大規模白化により、もしかしたら場所によっては生息する生物の種類が減っている可能性もあります。

昨年起こったような広範囲の白化現象で死滅したサンゴが回復するのには、数十年かかると言われていますが、過去の事例をみるとサンゴの種類によっては生息数が回復せずにその場所からいなくなってしまう場合もあるようです。

 

サンゴが白化したらどうすればいい?

まずは知ることから始めてもOK

 

サンゴの白化で変わっていく環境を短期間で劇的に改善することはほぼ不可能です。しかし、小さなことでもできることはあります。例えば、サンゴのストレスの原因を減らすために、農場から赤土が流れないようにしたり、海に流れ出る生活排水を減らしたり、サンゴにやさしい日焼け止めを使ったりと身の回りで始められることもあります。

また、そもそもサンゴがどういう生き物なのか、サンゴ礁がどういった環境なのかを知ることも重要です。図鑑以外にもサンゴやサンゴ礁の生き物を題材にした書籍がいくつかあります。そういった本を読んでみたり、実際にサンゴ礁の海へ足を運んだりするのも良いでしょう。

最近だとサンゴマップという一般市民が観察したサンゴの状態や生息情報を投稿できるWebコンテンツもあります。沖縄旅行の際や休日に海へ遊びに行った際に観察したサンゴの情報を投稿するのもいいかもしれません。これらの投稿情報を研究者がデータとしてサンゴ研究に活用もしていますので、サンゴ研究者を応援することにもつながりますね。

 

沖縄の海で起こっていることを紹介しましたがいかがだったでしょうか。沖縄の夏のピークは過ぎましたが、2017年の夏をサンゴ礁の海がどう乗り切ったのか、その結果がまとまるのはこれからです。2017年のサンゴ礁がどうなるのか、そしてこれから先の未来のサンゴ礁がどうなっていくのか、注目したいと思います。

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沖縄旅行をもっと楽しむ!島の自然を知る「エコツアー」をあなたが体験するべき3つの理由

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沖縄旅行といえば、観光施設をまわったり、ショッピングをしたり、時にはビーチでのんびりしたりと様々な楽しみ方がありますよね。その中でも特に「沖縄の自然」を楽しみたいという方におすすめなのが「エコツアー」です。

エコツアーとは、簡単に言うと「地域の自然や文化を対象にした観光」といったところでしょうか。学びの要素が含まれているので好奇心旺盛な方には特におすすめですね。

ガイドさんがいっしょに自然の中を散策するするスタイルがほとんどで、カヤックやウォーキング、トレッキング、シュノーケリングなど、いろいろなジャンルがあります。今回は沖縄旅行をさらに楽しむためにこのエコツアーをオススメする3つの理由をご紹介します。

 

自然体験が与えるポジティブな影響


森林浴でリラックス!なんて話を聞いたことがありませんか?実は自然の中で様々な体験をすることによって、体験した人の心と体にリラックス効果をもたらし、病気の予防に役立つという研究が報告されています。

特に森林浴に関する研究が多くあり、日帰りの森林散策ツアーによってポジティブな感情が増し、ネガティブな感情をやわらげることが報告されています。また、2泊3日の森林散策ツアーでは、ストレス状態をつくるホルモンが減った結果、病原菌から体を守る細胞が増えたり、がんに対抗するタンパク質が増えたりする変化が約1ヶ月続くといった研究報告もあります。

 

沖縄本島北部の森の中にて。真っすぐ伸びるヒカゲヘゴ。

森林浴に限らず、海が広がる景色や波の音にもリラックス効果があると言われており、頭上に青空、足元にサンゴ礁の海が広がる広大な景色に出会ったときの開放感もきっとあなたの心と体を落ち着かせてくれることでしょう。

 

サンゴ礁の浅瀬が広がる沖縄本島南部の海

また、自然体験は子どもたちにもポジティブな影響を与えます。日常的な自然体験が子どもの「生物多様性」に対する親近感とその保全意識を育むなど、自然に対する意識に大きな影響を与えるという研究報告があります。

実際に私たちのツアーに参加した子どもたちの中には、最初は怖くて生き物に触れなかった子が少しずつ慣れていって触れるようになったり、自分から積極的に生き物を探すようになったりと短い時間の中でも子どもたちの成長を感じられることがあります。

 

オオイカリナマコに大興奮の子どもたち

エコツアーに参加することは、普段外で遊ぶ機会が少なくなった子どもたちが自然や生き物に興味をもつ良い機会にもなるでしょう。

その他にも、単純に体を動かして汗をかいたり、美しい景色と出会うことで感性が磨かれたり、エコツアーでの自然体験は私たちの心身をより健康に、豊かにしてくれます。普段の生活で出会うことのない沖縄の自然の景色の中で、心と体の休息をとりながら自然体験をしてみませんか?

 

沖縄でしか出会えない自然を体験できる

沖縄旅行で欠かせない物の一つに沖縄の特産品など、沖縄でしか買えないお土産があります。

実は自然環境も同じで、世界の中でも沖縄でしか見られない自然環境ばかりなのです。国内でもっとも南に位置する沖縄県には、日本の他の地域では見られない南方系の生き物が生息しています。

南方系のチョウ、コノハチョウ。沖縄県では天然記念物に指定されている。
背中のターコイズブルーが美しいルリマダラシオマネキ。国内では南西諸島にのみ分布。

また、世界中で沖縄本島やその周辺の離島でしか見られない動植物も多く生息しています。

 

シリケンイモリ。沖縄本島とその周辺の離島にのみ分布。山のなかのため池などに多い。
平たい殻と殻のまわりの毛が特徴的なシュリケマイマイ。沖縄本島と瀬底島の固有種
オキナワトラフハナムグリ。沖縄固有亜種。ときどき色が黒い個体がいる。

また、沖縄本島では、北部と南部で自然環境が大きく異なっています。北部では酸性土壌が広がる一方、南部ではアルカリ土壌が広がっています。植物は種類によって生育できる土壌が異なるため、沖縄本島の北部と南部の森では植物の種類が大きく異なっています。

 

沖縄本島北部には大型のシダ植物「ヒカゲヘゴ」が生息している。
一方、沖縄本島南部の森ではガジュマルやハマイヌビワの入り組んだ枝幹がよく見られる。

動物たちにおいても、ヤンバルクイナやオキナワイシカワガエルのように北部のみに生息する生物や、クロイワトカゲモドキなどのように同種でも北部と南部で特徴が異なる生物も知られています。沖縄本島だけでみても、北部と南部で見える景色や出会える生き物がかなり異なっているのです。

オキナワイシカワガエル。沖縄本島北部(やんばる)にのみ分布。一見派手な模様だが、コケむした岩の上にいると目立たない。

本島北部の個体は、背中の斑紋が途切れているものが多い。
本島南部の個体は、模様がつながって背中の真ん中で一本の筋になっている個体が多い。

 

沖縄の魅力に気づかせてくれるガイドとの出会い

自分たちだけで歩いていたら見逃してしまう自然の魅力に気づかせてくれるのが「ガイド」という存在です。エコツアーのガイドは、ツアー参加者とコミュニケーションをとりながら自然体験を提供し、ケガや事故がないように安全管理を行ってくれます。

普通なら気にも留めない生き物たちの特徴を解説してくれたり、自然との関わり方を教えてくれたり、自然と私たち人間のつながりに気づかせてくれたりと、豊富な知識とユーモアを交えつつ、沖縄の自然の魅力を体感させてくれます。沖縄をより深く楽しむためにガイドの存在は欠かせません。

普段なら素通りしてしまいそうな植物もガイドがいれば興味の対象に。

そして自然の中へ立ち入る際の安全上の注意やルール・マナー、自然体験に適した道具や服装など、ガイドから自然との向き合い方や利用の方法についても学ぶことができます。自然体験を安心・安全に、そして適切に楽しむ際には、ガイドのアドバイスがあるととても心強いです。

また、沖縄リピーターの中には、来沖時に必ずエコツアーを頼むほど仲の良いガイドがいたり、仲良くなったガイドとSNSで交流して沖縄情報を集めたりと、時には「沖縄の友人」といったレベルまで親交が深まることもあります。

 

わかりやすいようにいろいろな道具を使って解説してくれます。

ちなみにキュリオス沖縄では、ツアー参加者をガイドする際には、参加者の好奇心をいかに育むことができるかを意識してご案内しています。また、沖縄だけで完結せず、参加者が地元に帰った後もいつもの風景がちょっと違って見えるように「自然を見る視点」をお伝えできればと考えています。

ガイドによってツアーに対する想いや案内する方法、得意な分野が異なるので、ぜひいろいろなガイドと沖縄の自然を巡ってみてください。皆さんの知らない沖縄をきっと教えてくれますよ!

名護市でのカヤック・トレッキングは「おきなわさんぽ」(名護市)

■体験ダイビング・シュノーケリング・リバートレッキングなら美ら島探検隊「TLEBO(トレボ)」(本島北部)

■カヤックフィッシング・カヤック・トレッキングなら「ハーモナイズ。」(本島中北部)

■那覇から40分!沖縄のサンゴ礁とガジュマルの森ツアー「キュリオス沖縄」(本島南部)

 

さて、沖縄のエコツアーを体験すべき理由はいかがだったでしょうか?沖縄の文化は自然とも密接な関係にあるため、自然体験を通して沖縄の文化や歴史にまで話が広がるかもしれません。

広大な自然の中で沖縄の海や森と一体になる感覚や沖縄に対して湧く新たな興味・関心、訪れるたびに異なる沖縄の生き物との出会いなど、沖縄に来たなら体験して欲しいものがエコツアーには詰まっています。

エコツアーへの参加が皆さんの沖縄に対する興味をさらに育ててくれることでしょう。沖縄に来た際には、ぜひエコツアーにご参加ください。皆さんと自然体験できる日を沖縄でお待ちしています!

今回ご紹介したような、沖縄のサンゴ礁とガジュマルの森ツアーが楽しめるキュリオス沖縄へのお申込みはこちらからどうぞ!

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沖縄の夜の森に、巨大なカニに会いにいくお話

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さて、沖縄ではいよいよ夏も本格的になってきました。

先日、思い立って1人で懐中電灯片手に、夜の森に行ってきました。

カニに会いに。

翅の短いバッタ、オキナワモリバッタや

おやすみ中のキチョウの仲間がお出迎え。

蚊をたたきつつ夜の森を進むことしばし…(めんどいので、1人のときは蚊よけをつけてません)

いましたよ!本命のミナミオカガニ Cardisoma carnifex

カニって浜にいるもんでしょ?と思っている方には、落ち葉のつもった森の中にカニ、というのが新鮮かもしれません。

でもそういうカニなんです。

つかまえて写真を撮ろうとして、長靴をはさまれる

 

普段は海岸(とくにマングローブ)近くの林の中に穴を掘って暮らし、落ち葉などを食べています。

初夏の大潮のタイミングでいっせいに海に下って産卵し、しばらくプランクトンとして海で育った後、陸に上がってきて生活するようになります。そういう意味ではオカヤドカリやヤシガニに近いサイクルですね。

なんとか捕獲

カニをつかむのときは甲羅の横をつかむのが定石ですが、ミナミオカガニはハサミを甲羅のだいぶ後ろまでまわして威嚇してくるので厄介です。

こちらは♂

♂は、お腹にある三角形(腹節といいます。実はエビの食べる所にあたる部分です)がせまいのが特徴。

こちらは♀の個体。両方ともハサミがあまり大きくないですね。

こちらは♀

♀のお腹の三角形の部分は、卵をかかえられるように幅広になっています。

ごらんのようにかなり大きくなるカニですが、食べても味が薄くおいしくないようです。

もともと数もそんなに多く生息しているわけではないので、観察して楽しむにとどめましょう。

せっかくなので寄った写真も撮ってみました。

どうです、この威容。

はさまれたらさぞかし痛そうですが、♂の超大型個体になるとハサミが湾曲してきっちり閉まらないので、そこに指を入れてもはさまれません(写真の個体くらいだとダメです)(というかいずれにせよ真似しないでください)。

こんな感じでハサミを振り上げ威嚇してきます。そんなに動きが速いわけではないので、追い詰めるとじっくり観察できます。

シャキーン

 

こんなカニ、ツアーで見に行きたい方いらっしゃいます?

もし一定の需要があれば、イベント的にやるかもしれません。

〈文章:キュリオス沖縄 宮崎〉

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危険?そうでもない?見かけてもそっとしておこう「ヒメハブ」

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やんばる(沖縄本島北部)の水場やその近くで最もよく遭遇するヘビがこのヒメハブ Ovophis okinavensisです。

沖縄で「太くて短いヘビ」を見かけたらヒメハブ

太短い体型が特徴で、体の色は変異がありますが、赤っぽいこげ茶色のものが多いようです。

ハブやサキシマハブなどとは少し違う仲間(ヤマハブ属)に分類されます。

沖縄の言葉で「ニーブヤー」(意訳:いつも眠そうにしている怠け者)と呼ばれるように、昼夜問わずじっとしていることが多く、あまり動き回りません。

ヒメハブの危険性は?

ヒメハブも、毒ヘビには違いありません。

これは体のつくりや性質を見ても明らかで、毒を使わずに狩りをするヘビは体も長く、もっとずっと筋肉質で素早いです。

ヒメハブの毒の毒性は、少なくとも人に対してはハブと比べてずっと低いと考えられ、またハブに比べると攻撃性も低いことから、山や畑作業に慣れた人には軽視されがちです。

ですが、2本指の欠けた手を見せながら「農作業をしていて咬まれて、放置していたら指が壊死してしまった」というお話をしてくださった方もいるので、あまり軽視しすぎない方がいいでしょう。

基本的に距離を保って観察する分には、向こうから近付いてくることはありません。

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また、枯れ葉にまぎれる体色や動かない性質から「いても気づきくい」ため、誤って踏んづけて咬まれないように注意が必要です。

万が一咬まれた場合は、慌てなくてよいので必ず病院を受診しましょう。

カエル食いのヒメハブ

ヒメハブはカエルが大好物…というより、餌のほとんどをカエルに頼っているそうです。

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沢の浅瀬につかるヒメハブ

普段は沢など水場のそばにいますが、雨が降ってカエルが活発に動き回るときは一緒に道路などに出てきます。

夜の沢やカエルの繁殖期の水場に入ると、何個体も目撃することができます。

ヒメハブは見つけてもそっとしておこう

沖縄では、ヘビを見かけると殺そうとする人もいます。

ハブの個体数が多く、ハブによる咬傷が絶えなかった時代は生活の知恵の一つだったのかもしれません。

しかし、今やハブの個体数はやんばるでもそれほど豊富ではなく、人家の敷地内に出た場合などを除いて殺す必然性はありません。

ヒメハブにいたっては、上に書いた通りもともとあまり危険性の大きなヘビではありません。

ヒメハブを見かけたら、侮らず適度な距離を取ってじっくり観察してみましょう。

ちなみにヒメハブは、世界中で沖縄諸島と奄美群島のみに生息する固有種です。

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夜の沢で見かけたヒメハブ。珍しく最初から攻撃態勢
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沖縄産カメムシ2種がそれぞれ「英国風」「和風」すぎると話題に!

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カメムシと言えば、悪臭を出すことで嫌われ者というイメージがありますね。

でも、沖縄にはこんなカメムシもいます。

@curious_okinawaが投稿した写真

今回紹介するカメムシも、なかなかのお洒落さん達です。

(試しにInstagramの昆虫写真の投稿をファッション系のタグまみれにしてみたところ、Instagramをファッションやメイク関係の情報収集に使っているであろうお姉さま方からもリアクションがありました。いろいろな方に興味を持ってもらうのはとても重要なことです)。

英国風ロイヤルカメムシ

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シロジュウジホシカメムシ Dysdercus philippinus

どうです英国風!

…え、どこが英国風か分からないって?

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ほら、集まってると近衛兵っぽくないですか?

こんな 英国風な出で立ちですが、もちろんれっきとした沖縄在来の昆虫です。この模様を「インディアンの盾」と表現している方もいました。言われてみれば。。

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那覇市内にて、2月

冬場、オオハマボウという樹の葉の裏にこんな風に集まって冬越しします。特にぽかぽかと日の当たる地面に近すぎない場所の葉の裏をのぞいてみると高確率で出会えます。

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さらに、こいつの幼虫の頃の姿がこんななので笑ってしまいます。チョッキか!っての(若い世代の人よ、チョッキとはベスト、ジレーのことです。)

こってり和風カメムシ

それと対をなすように和風な出で立ちをしているのがこちら。

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アカホシカメムシ Dysdercus cingulatus

はい、こちらは文句無しに、誰が見ても和風だと思います。

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黒いスポットが目玉で、人の顔にもちょっと見えますね。

幼虫の写真…はちょっと手持ちが見当たらないのですが、シロジュウジホシカメムシとよく似ています。

カメムシは植物食のものが多く、今回紹介したカメムシ2種もアオイ科の植物(オオハマボウやハイビスカス、フヨウなど)に口吻を突き刺して汁を吸います。ただしカメムシの中には肉食のものもいて、ベニホシカメムシ Antilochus coqueberti なんぞは、(今回紹介した)近縁種のアカホシカメムシを専食するというから驚きです(ひっくり返して口吻を突き刺し体液を吸うようです)。いつか絶対写真撮って記事にしよう。

今回の記事を書くにあたって、あまにりヘタな事を書いてないか一通りweb検索したのですが、wikipediaの情報が安定しているのがいいとして、ニコニコ大百科のカメムシのトピックが素晴らしい。

(by 宮崎)

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まるで和菓子のような可愛さ。やんばるの固有種「ナミエガエル」

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沖縄本島の北部の山林「やんばる」には、数多くの固有種(そこにしかいない生き物)の生物が生息しています。その一つがこのナミエガエル。

一見ヒキガエルにも似ていますが、分類学的には全然違う仲間のカエル。クールガエル属という台湾〜東南アジアにかけて生息・繁栄しているカエルのグループに含まれるそうです。

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ナミエガエル Limnonectes namiyei

低地にはおらず、夜間、山の渓流の周辺、それも流れが急ではなく緩やかに広がるような所に好んで集まるそうです。雨の日は活発に活動し、沢の周辺の登山道にまで出てきます。

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森の中で鳴いたり移動したりしている時は、こんな風に前脚を伸ばして堂々と佇んでいます。サイズも♂で10cm超と結構大型になるのでなかなか立派な感じです。

おいおい、こんなカエルのどこがカワイイんだよ…と思った方。

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雨の日のやんばるにて。雨滴が写り込んでいます

ナミエガエルは外敵に気づくと、こんな風に「ぺたん」と座り込んでしまうのです。この姿が最高にキュート!!

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虹彩に十字の模様が入ります

背筋を伸ばして(?)いると結構よく目立ちますが、いったん「伏せ」の体勢をとると、沢沿いの石に紛れて非常に目立ちにくくなります。

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産卵場所の、沢が広がった沼地で鳴いていた♂

繁殖期は4-6月、沖縄でいわゆる「うりずん」と呼ばれる初夏の季節で、この時期に♂は「クォックォックォッ…」と鳴きます。

この仲間のクールガエル属のカエルには、何と♂が下顎に牙(のような突起)を持つものが多く、ナミエガエルもこの牙を持つ…そうなのですが確認したことがありません。なにせ沖縄県の天然記念物に指定されているので、捕まえて口を開けて確かめてみる…というわけにはいかないのです。

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ナミエガエルの幼体。あっ、顔吸血されてますね^^;

あと文句なしにカワイイのが亜成体(オタマジャクシではないが、大人になり切ってもいないカエル)。ナミエガエルに限らずですが、カエルの亜成体は眼が体に対して大きくてキュートです。

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コロコロしていて、なんとなく団子を連想させます。「これは、アンコが入ってるに違いない!」とは友人のF氏談。

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亜成体も礫(れき)に擬態しているのでしょうね。夜間沢沿いを歩いていると、石の色にどうかしていてなかなか気づきません。

このナミエガエルですが、戦前、それから食糧難の戦後にかけては、「ミジワクビチ」(ミジ=水、ワクビチ=大型のカエル)と呼ばれて食料にされていました。大型で肉量が多く、しかも美味しかったそうです。その後、ナミエガエルの生息できるような沢や森の減少にともない、分布域・生息数ともに減少してしまいました(絶滅危惧IB類:EN)。

現在は県の天然記念物で、もちろん捕まえることも食べることもできません。ただ夜の沢に入って、「君、だんごみたいだな。中にアンコ入ってんじゃないか。じゅるり」と言いつつ写真を撮るのは自由です。

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